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市子さんは流浪する  作者: FRIDAY
序:蕭々と雨の降る
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06.雨唄

 

 

 少女は何も言わない。

 ただ、包帯に隠された目を曇天に向けている。


 何も見えてはいないはずだ。

 だが、その後ろ姿は、何かを眺めているようにしか見えなかった。


 もう少女を保護できる者はいない。

 この里には、否、もうこの山には住んでいられないかもしれない。


 少女を育て、そして亡くなった老婆だけが、少女を守っていたのだ。

 少女の生活は、長くとも彼女の保護者の物忌みが終わるまでしか保証されない。

 年端もいかない幼子でありながら、少女は山を降りるしか選択肢がなかった。


 そのことを、少女自身がわかっているのかどうかはわからない。


 ただ縁側に腰掛けて、空へ顔を向けているだけだ。


 少女の背は何も語らない。


 少女が何を思っているのかは、誰にもわからない。


 ――ふと、小さな音が聴こえた。

 微かな、しかし旋律を伴った音の連なりだ。


 音の源を探してみれば、少女が、唇を小さく尖らせている。


 唄。


 少女は、誰にも聴こえないほど小さな、囁くような声音ではあるが、確かに何かを唄っていた。


 その唄は小さく、雨に紛れて誰へと届くこともない。

 それでも、少女は唄を口ずさんでいた。



 葬儀はまだ始まらない。

 

 

 

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