05.少女の世界
声そのものは、縁側に座る彼女のもとまでは届いていない。
雨音に紛れて、微かなざわめき程度にしか伝わっては来ない。
だが、少女には全て“聞こえて”いた。
それが、少女の“枠外”のひとつであるからだ。
少女の耳は、音にされた言葉も、表に出されない思いも、全て等しく拾い上げてしまう。
だから、座敷の人々の少女へ向けられた全てを、少女は余さず聞き取っていた。
その上で、無表情。
退屈そうに足を揺らす。
だが、無感情であるのかは、彼女の顔からは窺い知れなかった。
眉も、頬も、口端も、余計な力は入っておらずフラットだ。だから、およそ無表情という表現は正しい。
しかし、感情を最も明確に表すはずの少女の瞳だけは、何もわからない。
少女は、両目にかけて包帯を巻いていた。
両目を隙間なく覆い隠すように、きつく包帯を巻いていた。
それは別に、少女が目を怪我しているのであるとか、目の病気であるだとか、そういった理由によるものではない。
彼女は、両目ともが見えていないのだ。
もっとも、それだけならばこの場の他の者たちと大した差はない。この里も、近隣の集落も、一帯で生活する者はほとんどが全盲や弱視の者だ。そういった者たちが生業を求めて集まる山なのだ。
だが、少女のように両目を隠しているものは、他にはひとりもいなかった。
彼女だけだ。
彼女がその包帯を外しているところを見たものは、今ではもう誰もいない。
だからこそ、多くの者が、少女のその両目には何かがあると考えていた。
何かがあると思い、恐れていた。
人ならざるモノが住まうと考え、忌避していた。
だから、少女を傍に置く者はこの一帯にたった一人しかおらず。
そしてもはや、一人もいなくなってしまったのだった。