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市子さんは流浪する  作者: FRIDAY
弐:遠く遠く、遠くまで
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24.特務

 

 

「まあ勝率は、今日までの話だ」


 沈みかけた雰囲気を払うように、高坂が芯の通った声で言った。


「さすがにあの娘も、うちの総長の術式には手間取るようだしな」


 それは確かに、そうだ。今を以てしてもなお、“姫百合”は破られず、“だいだら”は同じ場所に留まっている。


「このまま夜明けまでもってくれれば言うことはないんだが……さすがにそこまで甘く見てはいられないだろうからなあ」


 気楽な調子で言って、高坂は立ち上がる。それから座り込んだままの白城を見て、


「戦闘は続行だ。“姫百合”、まして総長の“姫百合”でもいつまで持つかわからんし、解かれてもすぐに急襲できるように待機」

「え……でも」


 白城は、膝に置いた納刀状態の“夕霧”を見下ろす。

 封印された今では、ただ重いだけの長物となった“夕霧”を。


「私は、これでは……」


 相手の実力を知らなかったとはいえ、あまりにもあっさりと捕えられ、封印されたのは完全に白城の落ち度だ。

 擬剣草薙。

 市子は草薙レプリカと呼んでいた“夕霧”は、確かにその呼び名の通り、“草薙”の擬剣であり、レプリカだ。

 神話に語られる“草薙剣クサナギノツルギ”。神代において神々から英雄の手へと引き継がれ、オリジナルは現存しているが実戦では用いられず、尾張の大神社に奉納されている神剣だ。

 擬剣の霊格はオリジナルに準ずる。

 だから当然、それを擬して創られた大太刀である“夕霧”も、オリジナルである“草薙”には及ばずとも、相当に高い霊格を有している。

 それを、いともあっさりと、封じられた。

 下唇を噛んで俯く白城に、高坂は軽く肩を叩き、


「お前の実力は“夕霧”ありきのものじゃないだろう――特務に任命される前のことを思い出せ。武装はあるからな。好きなだけ使え」


 そうやって大笑する。

 白城は、勿論笑って応ずることなどとてもできない。

 けれども、場を弁えてはいる。


「……はい」


 立ち直ったわけではない。ローテンションは退きずっている。だがそれでも、白城は頷き、顔を上げ、立ち上がった。

 白城は、特務だ。

 曲がりなりにも特務である自分が、任務中にいつまでも落ち込んでいるわけにはいかない。それでは他の隊員の指揮にも悪影響が及ぶ。

 だから白城は、気丈に立ち上がり、高坂をまっすぐに見上げた。

 高坂の目から、力は全く減じていない。だから、


「標準仕様で構いません――刀を、ありったけください」


 白城も瞳から光を失うことなく、前戦に臨む。

 

 


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