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市子さんは流浪する  作者: FRIDAY
弐:遠く遠く、遠くまで
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19.戦況⑧

 

 

 空中を駆け昇り、一息に“だいだら”の頭上まで到達すると、そこにいた。

“彼女”がいた。

 “だいだら”の右肩、その上。

 そこに悠々と、足を投げ出して座っている。


「“忌み子”――!」


 見れば、少女はこちらを見上げて、おお、と感心したような表情になると、あろうことか気安くこちらへ手など振ってきた。

 対して高坂は、手を振り返す、なんてことがあろうはずはなく、軋むほど固く拳を握りしめて、引く。

 上昇から反転。宙を蹴り、急降下する。

 落下速度にさらに速度を上乗せして、飛び込む。

 撃ち落とす打撃は術式で加圧され、先の一撃を遥かに上回る。

 軽く水蒸気爆発が起こるほどの、一瞬。

 それを、眼下の少女へ撃ち込む。

 一見、過剰とも言えるような全力攻撃だが、


 ――手加減を考えて通用する相手ではないっ!


 対決は、これが初めてではないのだ。

 一瞬で決められなければ、勝ち目は絶望的になる。

 邪魔されるわけには、いかない。

 こちらも任務がかかっているのだ。少女を相手に職務を放棄するわけにはいかない。

 ましてや、


「特務が怯んでんじゃあ、話にならんだろうがっ!」


 豪、という音を、しかし背後に置き去りにして、高坂は少女に肉薄する。

 お、という裂ぱくの気合いとともに拳を繰り出す。

 少女の眼前に拳が迫り、しかし少女はその表情から余裕を失わず、拳は吸い込まれるようにして少女に、


 大打撃を貫徹する寸前で、受け止められた。


「――――!」


 受け止めたのは、一瞬前まで少女の背後に控えていた女。

 狐、と呼ばれる者だ。

 彼女は瞬く間にして高坂と少女の間に割って入り、指を浅く組んだ両手で包み込むようにして高坂の拳を迎え、そしてあろうことかその衝撃を、山をも打ち砕かんと言う打撃を、恐ろしいほどに完璧に殺し尽し、ゼロにした。

 背後に座る少女には、微風しか届かない。


「――くっ」


 奥歯を噛み、反撃を避けるため後方へ跳び退すさる。牽制の蹴撃は軽く受け流されたが、反撃は一切なかった。

 そのことに微かな疑問を抱きながらも、しかし高坂は通信機へ向かって怒鳴る。


「向枝!!」

【――光となりて穿ちなさい】


 静かな、唄うような声が聴こえると同時に、高坂は後方へ、そしてさらに上方へ跳ぶ。向枝の攻撃に巻き込まれないためだ。

 とんぼを切って回避する眼下を、極大の光芒が一閃した。

 向枝の霊弓“露陰”による、超長距離狙撃。もはや砲撃と呼んでも違わないそれは、狙い違わず一直線に少女へ向かう。

 膨大な魔力を付与されたそれは、先の一撃を女が止めたように、体術でどうにかなるものではない。――そして、高坂がそうしたように、向枝もまた攻撃に容赦はなかった。

 直撃すれば、灰も残らず消失する。

 その光撃を前にして、少女は、


「――ゴザル君」

「承知」


 少女の横に座っていた白犬が応じる。だが間髪なく光が少女らへ肉薄し、


 しかし、消え失せた。

 まるで丸ごと呑み込まれたかのように。


「――これも」


 通用しないか、と後方へ跳ぶ風の中で高坂は歯噛みする。

 見れば、依然として座ったままの白犬は淡い輝きを纏っており、光撃の内にあった実弾である破魔矢は、やはり女によって摘ままれている。

 だが、これで終わりではない。

 攻撃はまだ続く。三段構えに備えていたもので、


「――白城!!」

「はい!!」


 己の下方を高速ですれ違う人影に、高坂は命じる。

 三段構えの、三段目。

 奥の手にして、隠し玉。

 これが本命だ。

 

 


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