17.戦況⑥
全力の一撃だ。条件によっては山くらいは吹き飛ばせる威力だった。
それが、防がれた。
――いや、違う。
直に拳を当てた高坂にも、それはわかっていた。
全て、完全に受け流されたのだ。
着弾と同時に四方へ派手に撒き散らされた爆発が、その証だ。
本来それは、“だいだら”をぶち抜く、とまではいかずとも、数歩後退させられる威力はあった。
それが全て、ベクトルを強引に曲げられ、周囲へ抜けさせられたために、爆発となったのだ。
しかも、
拳が、届いていなかった――!
手ごたえが、明らかに妙だった。
結界だ。
「くっ……」
己の拳が“だいだら”に通用しなかったと、一瞬で判断した高坂は、既にその場を大きく離脱している。来た方向へ全力で逆行している。一足で数百メートルをゼロにする大跳躍だが、それだけのことをしなければ迫りくる“だいだら”に轢かれてしまう。
……埒が明かん。
内心で、高坂は奥歯を噛む。
今を以てして、高坂ら守護連は一撃も与えることができていない。全て無効化されている。
その元凶は、わかっているのだ。それが“だいだら”によるものでないことは。
“恐山の忌み子”。
かの少女がこの件に関わっていることは明らかだ。
だから、あの少女をどうにかしなければならないのだが、
どこにいる……!?
それがわからなければ、対処のしようも――!
【――高坂!!】
耳元を吹き荒ぶ豪風の中、声が聞こえた。
耳に嵌め込んだ通信機。
向枝だ。
【高坂! いた! 上だ!!】
何が、とまでは言わない。
ふたりとも、ここで何が、あるいは誰がそこにいるかなど、言葉にするまでもなくわかっている。
「おお……!」
符を展開し、踏む。一度ならず二度までも、強引な方向転換の負荷をかけられ、右脚が深く軋む。
だが、そんなことに構ってはいられない。
向きを、変える。
そして再び、疾走する。
向かうは上方。
そこにいる人物のもとへ。




