15.戦況④
“雛罌粟”が通用しないことはわかっていた。勿論“雛罌粟”とて一級の術式だが、同じく一級の“山茶花”がいともあっさりと破られたのだ。それで“雛罌粟”が届くということもあるまい。
だから、あれは目くらましだ。
接近を悟られないための、弾幕。
突貫する。
地力に術式を上乗せして加速する。行く先に放った符を足場として疾走する。
目標は“だいだら”の水月。
人間であれば、人体の急所となる場所だ。
勿論、いくら“だいだら”が人間と同じような姿をしているとはいっても、急所まで倣っているわけではない。
しかし少なくとも、水月は五体の中心だ。
そこを全力で突けば、最低限足止めはできる。
だから走る。
疾走する。
目測100キロも、二呼吸する間にゼロにする。
一瞬にして迫るのは、わずかに向こう側を透過しながら、それでいて確かな存在感をもつ、壁。
“だいだら”だ。
「お……!」
中空に、わずかな道を作る符を、強く踏む。
低く、低く前傾し、弾丸のように踏み込む。
「おお……!」
万力のように固く、硬く拳を握りしめる。
深く引いた右の拳の上を、這うように纏うのは淡く紫黒に輝く文言。
修験道が術式、己が拳を以て降魔調伏すべし。
それは、鬼にも見紛う一撃。
「おおお――!!」
震脚。加えて腰を捻ることで、速度を余すことなく打撃力へと繋げる。
撃つ。




