10.威容
「――、動き出したか」
イヤホンからの報告を受けて、高坂が表情を引き締めて振り返る。それを受けて、向枝と白城も遥か前方へ視線を向けた。
一見、そこは変わったものは何もない、月明りに照らされるただの森だ。
だが、その月明りがわずかに強まったように感じられ始め――徐々に、姿を現す。
「大きい――」
白城が、思わず、といった様子で嘆息した。
“だいだら”。
巨人だ。
遠望であるにも関わらず、その巨大さにやや背が冷える。遠近感が狂ってしまいそうだ。
しかも、
「――立つぞ」
「え?」
小さくつぶやいた高坂に、驚いて白城は高坂を見て、再び“だいだら”に視線を戻す。
その通りのことが起こっていた。
白城が全高だと思っていたそれは、どうやら座高に過ぎなかったようだ。
“だいだら”は、胡坐をかいていたようだった。
それが見る間に、しかしゆっくりと片膝を立て、手をつき、立ち上がる。
一切の音がしないことが、むしろ不自然だった。
そんな巨大なものが動けば、それだけで暴風が巻き起こりそうなものだが、そんなことは全くなく、消音されているかのように、無音。
いや――そうか。
虫の音も、鳥の声も消えている。
見えずとも、わかっているのだろう。
神の行幸に――
「――“だいだら”」
畏怖を込めて、白城はつぶやく。
甘く見ていた。巨人とはいっても、せいぜいそこそこの山ほどの大きさであろうと思っていた。それくらいなら、何とかなると思っていた。特務三人は多すぎると、
だが、そんな考えは消し飛んだ。
冗談じゃなく――山など遥かに超える。大抵の山は苦も無く跨ぎ越えるだろう。東京スカイツリー、というものが先日完成したといって、任務ついでに物見遊山に出たことがあったが、全くその比ではない。
雲が肩辺りを流れている。
ビジュアルはといえば、確かに人の形をしてはいるものの、決して人ではない。うっすらとではあるが向こう側を透過しているし、五体は見えるものの、目鼻立ちなど全くない。
その辺りは確かに物の怪とも言えるのだが、いかんせん、スケールが桁違いだ。
成程これならば、神にもなろう。地形を変えるくらいのことは容易にやってのけるだろう。
あれを、止めるのか。
全容を一目して改めて今回の任務を思い、白城は一瞬、気が遠くなりかけた。
最悪の場合、あれを“退治”するなど。
特務三人でも足りないのではないか?




