06.状況②
「一ヵ所に留まっている期間が、あまりに長い」
腕を組んで、高坂は言う。
「確かに“だいだら”は常に移動し続ける物の怪ではない。だがそれにしても長すぎだ」
「400年……ですか」
白城の言葉に、高坂は頷く。
「しかもな、それだけでもないんだ――この“だいだら”が、土地神とまで成り得たのは」
「それだけではない、といいますと……」
「単純な話、個体としての存在している時間もかなり長いんだよ」
いつからなのかはわからない、と高坂は言う。
「だが少なくとも、平安か、それくらいにはもう存在していたことは、わかっている」
「平安……ということは」
「まあ、ざっと千年だな」
千年。確かに、それだけの長期間にわたって存在し続けている――自然消滅することも、退治されることもなく在り続けているのであれば、神格化もしようものだが、しかし、
「それにしても……それで、何が問題なのでしょうか。結局は、自然の摂理では……」
人が手を出す領分ではないのではないか。少なくとも、人界に悪影響が及ぶわけでもないし――と白城は言いたかったのだが、
「被害が出る――可能性が、あるのよ」
「可能性?」
応えた向枝に訊き返すと、向枝は頷いた。
「何度も言っているように、今回の対象は土地神――土地神が移動する、ということは、それでどうなるか、わかる?」
「どうなるか……と、言いますと」
咄嗟にはわからなかった白城が言葉を濁すと、向枝は、
「至極単純に考えて構わないのよ。ある場所にしかないAというものを、その場所から移動したら、その場所には何が残る?」
「何も残らない――つまり、この地から土地神がいなくなってしまう、と?」
そう、と向枝は頷く。
「土地神が土地からいなくなる――それが実際的にどういうことになるのかは、残念ながら正確なところはわからない。でも、おおよその予測は立てられる」




