05.状況①
前触れなく市子が派手にくしゃみをした。
それを横目に、ため息をつきながら、それでもぬいぐるみから律儀に話を引き取る白犬。
「“だいだら”。だいだらぼっち、でいだらぼっちとも、まあ呼び名は数多くあり、その伝説もまた日本各地に数多く残っているので御座るが、それには大きな共通点が御座ってな」
「共通点? ああ、あれか。巨人か」
「まあそれもあるので御座るがそうではなく――“土地”に絡む伝説が多い、というところで御座るよ」
「土地?」
ぬいぐるみの反問に、白犬は頷く。
「土地作り、というよりは改変で御座るな。どこそこの山河の由縁は“だいだら”である、という伝説に御座る。まあ、そういった伝説はどこにでもあるもので御座るし、個々の真偽はここでは重要でないために割愛するで御座るが」
「ああ? あー……いや、でもそれなら、“だいだら”っつーのはもともとどいつも土地神なんじゃねェの?」
「いや、それとこれとは事情が違ってくるので御座るよ」
ああ? とやや苛立った声を上げて耳を引っ張ろうとするぬいぐるみを、低く唸ることで制止してから、白犬は先を続ける。
「時を経ることで階位が昇っていく話は、まあよくある話ではあるので御座る。猫又然り――九尾然り」
一瞬、白犬は市子の背後に控えている狐を窺うが、狐は変わらず目を伏せたままで反応を返すことはない。
「“だいだら”も、その、巨人である、という存在、在り方からして神に近いと言えなくないので御座るが、もともとは怪異、ひとつの物の怪に過ぎないので御座るよ。土地を改変したところで、それだけのことなので御座る。が、今回のこの“だいだら”は、また話が異なってくるので御座る」




