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市子さんは流浪する  作者: FRIDAY
弐:遠く遠く、遠くまで
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04.緊張

 

 

 部隊の配置を確認し、いくつかの追加指示を出して歩いていた高坂は、最後に自分の持ち場であるところの、“だいだら”の予想通路の真正面のそこに戻って来た。

 そこには既にふたりの人物が待機している。

 場数を相当に踏んでいるのであろう、ゆったりと落ち着いた雰囲気の妙齢の女性と、こちらは相当に緊張しているのがありありと見て取れる年若い女性だった。少女と言ってもいい。

 高坂は余裕たっぷりの女性に片手を上げて会釈を交わした後、朗らかに笑いながら緊張バリバリの少女の肩を叩いた。


「おいおい白城シラギ、いくらなんでも緊張しすぎだろうお前。前線任務はこれが初めてでもないってのに」


 言われ、少女はがくがくと頷く。がちがちである。隣の女性、高坂と同じように“特務 向枝ムカエ紗鳥サトリ”という腕章を巻いた彼女も苦笑して、


「ほんとにね。ひとりでもっと難度高い任務だっていくつもこなしてきてるのに、ずっとこんな感じなのよ」

「別に緊張しぃってわけでもないだろうが……」


 純粋に不思議そうに覗き込んでくる高坂に、白城は棒立ちのまま、


「せ、戦闘任務であれば、私もようやく慣れてきてはいるのですが、こういった特殊任務は初めてでして」

「ああ、まあなあ」


 顎を撫でながら、高坂は頷いて返す。

 白城の腕にもまた、高坂や向枝と同じように“特務 白城・マコト”記された腕章が巻かれている。

 特務というのは、階級でいうとかなり高いランクになる。前線に出る者としては最高ランクと言ってもいい。単純な部隊の人数や、強力な兵装を備えていても手に負えないであろうと想定される対象や、一個人としての高い戦闘力、状況に応じた柔軟性が必要である場合に配備される。

 それで言うなら、実年齢が高校生程度の白城が特務に配属されるのは異例といってもよさそうなものだが、それにもちゃんとした理由がある。

 白城が携えている、武器。

 それに由来する理由が。


「確かに、特務が三人も、っていうのは滅多にない――普通はひとりか、多くてもふたりだからな。正直言うと、俺もあまり経験がない」


 けどなあ、と高坂は白城を見やる。


「作戦内容を復唱しろ」

「はい。今晩中に移動を始めると思われる“だいだら”の移動の阻止。これを起点である東北圏と、終点である古都圏で共同で行います。上策は純粋に“だいだら”を東北圏に留まらせることでありますが、最悪の場合、“だいだら”を“退治”することも許可されています」

「上出来。それがわかってるなら大丈夫だって。それをやるだけなんだから」


 笑いながら、高坂は白城の背をばしばし叩く。反射的に白城はむせているが、


「し、しかし……やはりわからないことがあります」

「ん? 何だ」

「作戦内容を見るに、やはり特務が三名も担当するほどのものであるとは思われないのです。確かにあの“だいだら”は神クラスですが、だからといって特務が三名とは……」


 白城の、恐る恐る、といった疑念に、高坂はやや渋い顔をした。


「それなあ……まあそう思っているのはお前だけじゃないんだろうけどな。それに、何だかんだ言ってもお前もまだ新人なわけだし」

「? どういうことですか?」


 んー、と高坂は何やら思案している。言葉を選んでいる、という感じか。見れば、向枝もまたやや浮かない顔をしている。


「“彼女ら”が、というより“彼女”がこれに関わっている可能性がある、という総長の判断でな」

「“彼女”、とは?」


 ああ、と高坂は頷く。


「お前は見るのは初めてになるし、知ってる奴も話したがらないから聞いたこともないだろうが……それに、会わないに越したこともないんだが。まあ、この世界の通称で呼ぶところの」


 ぽつり、と、


「“恐山の忌み子”だよ」

 

 


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