06.夕食
その夜。
いろりを間において、少女と老婆は差し向かいで夕食を摂っていた。
二人はお互いに、一言もなく、黙々と食事を続ける。
食事は、一膳一菜の簡素なものだ。量も、初めからひとり一食分しか用意されておらず、それも大した量ではない。だが、どちらも多くを食べることがないので、それで十分に事足りているのである。
電気を引いていないため、いろりの炎だけが穏やかに部屋の内側を照らす中、箸が食器に当たる音と、二人の咀嚼音だけが聴こえる。
とりたてて珍しい光景ではない。
いつもの食事風景だ。
老婆が先に食べ終えるのも、いつもの通りである。
彼女は、もちゃもちゃと口の中のものを咀嚼し続けている少女に構わず手を合わせてしまい、食器を持って立ち上がり、それを台所においた桶の水に浸け入れると、その足でまた居間に戻る。
だが、その後のことはいつもと少々違っていた。
いつもなら、食事を終えた老婆は居間に戻ると、少女が食べ終わるまで繕い物などをして過ごし、食べ終わった少女が食器を浸け入れて戻ってくるとそのまま寝所に入って眠っていた。日によってすることが繕い物であったり仕事道具の手入れだったりはするが、大体にして少女の傍にはいるのである。
それが、老婆は珍しく居間で足を止めずに、そのまま戸を開けて奥の部屋に入って行った。
寝所ではない。恐らくは仕事の部屋だ。
「………?」
もちゃもちゃと頬にいっぱいに詰め込んだ食べ物を咀嚼している少女は、老婆の珍しい行動にわずかな疑問を浮かべたが、別に騒ぎ立てることではない。咀嚼を続ける。しかし一向に飲み込めないようだ。
少女ひとりになった部屋で、もちゃもちゃという音だけが聞こえる。




