03.日課
少女は、ただ黙ってそこに立っていた。
一見しただけならば、ただわけもなくぼんやりとそこに佇んでいるだけだ。強いて言えば、顔を浅く上げ、何かを見上げているようにも見える。しかし、時折何かを追うように顔を彷徨わせたりしているので、何をしているのかはわからない。
ただ、その姿を見たものは誰しも、少女が何かを目で追いかけている、とは思わないだろう。
その少女の両の瞳は、固く閉じられているのだ。
何のことはない、少女もまた、この一帯の多くの女性がそうであるように、目が見えないのである。
それなのに、まるで宙を彷徨う何かを追いかけているかのように首を巡らせるその様子は、やはり何かを見ているようにしか見えなかった。
聞こえるのは風の音、木々のさざめき。見えるものは森ばかり。それなのに、少女は何か、それらとは別のものを聞き、見ているように思われる。
少女は、もう長いことそうやって立っていた。否、実のところ、彼女は暇になるといつもそうやって庭に立っているのである。ある意味では、日課といってもよかった。
――ふと、足音が聞こえた。
それは少女の背後の日本家屋から響いてくるもので、床板の軋みとして伝わってくるものだ。
ゆっくりとした歩調で近寄って来た足音は、やがてがたがたと音を立てて、庭に繋がる縁側の雨戸を引き開けた。




