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市子さんは流浪する  作者: FRIDAY
伍:汝は鬼なりや
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01.討滅任務

 虫のがさやかに響く。

 空は満天に星々を戴く。

 夜だ。

 市街であればこれほどにはよく見えないだろう。地球上の隅々まで人の目の及んだ現代においてもこれだけの星が瞬くのは、ひとえにここが山奥だからだ。

 夜の深い森。

 そして魔はいつの世も、闇の奥に潜む。平安よりも昔から、それは変わらない。見通しの利かない夜闇の奥、姿見えぬ鳥獣の鳴き声や風が木々の隙間を抜ける音に、異形の怪異を思い描き、無形の恐怖を抱いた。

 だが、今、その闇の内を臆せず疾駆する影がある。

 ひとつではなく、ふたつ、みっつ、全部で十はあろうか。統率の取れた動きで、太い根の這う地面だけでなく、幹、枝をも足場にして、縦横無尽に彼らは駆ける。


「――状況は」


 中ほどを走る人影が、その激しい疾走にありながらまるで乱れぬ呼吸で、インカムに問う。


『今のところは、周囲に動きは見えません。ただ、』

「ただ?」

『静かすぎるような気もします。少し前から、獣どころか虫の鳴き声も途切れました』

「それだけ近づいているということでしょう。引き続き、探知と警戒をお願いします」


 走る中、片手は常に腰の刀に添えられている。いや、それは刀にしては反りが深く、刃を下にして佩いており、何より1メートルを超えるほど長かった。腰に佩くには長すぎる得物だが、しかし背負えば森中を疾走などできまい。

 周囲に展開して走る面々と連絡を取り合いながら危なげなく走る彼女の腕章には、“特務 白城・誠”とあった。


『白城さん、そろそろ例の地域に入ります』

「はい。引き続き警戒をお願いします。今のところ、私にも特に感知するものはありませんが、事前の観測どおり霊脈が乱れているのなら、いつどこに何が発生するかわかりません。少しでも違和を覚えた人は、すぐに報告してください」


 了解、と皆が応じる。その応答に、白城は小さな安堵と緊張を感じ、乾いた唇を浅く舐めて湿らせる。

 部隊の面々は、皆白城よりも年上で、戦歴もベテランの者たちだ。彼らが白城の指示に異を唱えることなく従ってくれるのは、白城が特務――彼らよりも上の階級にあることもあるだろうが、信じてくれているということでもある。そのことに、白城は感謝と、僅かな後ろめたさを感じる。後者は、感じること自体が不遜であることはわかっているのだが――


『――! 特務! 前方一帯から何かが高速で飛来します! 個々は小さいですが数が多い!』


 突如インカムから響いた声に、白城は我に返った。同時に白城も報告と同じものを前方に検知する。ゆえに、白城はすぐさま全部隊に指示を飛ばす。


「総員、防御姿勢!」


 高速の動きの中だ。急停止は難しい。しかしそこは訓練された面々、宙を、地を滑るように跳び、腕や武装で身を固める。

 そこに“何か”が雲霞の如く押し寄せた。

 両腕のガードに夥しい“何か”が衝突する。

 ひとつひとつの衝撃は、強いものではない。しかし多段にぶつかるそれは、姿勢を変えることを許さない。

 だが、いつまでもそうしているわけにもいくまい。白城の右手が閃いた。

 途端、ぶわっと影が膨らむ。白城の右手には刀。通常の霊装で、“夕霧”ではない。ここはまだ、“夕霧“を振り回せるほどの空間がない。それでも、闇には十分だった。

 二閃、三閃。闇がさらに距離を広げる。

 その隙を逃さず、白城はインカムに命ずる。


「各自符を起動、結界班は術式を展開してください!」


 応答、瞬時に各員が実行し、広がった結界に巻き込まれた闇は潰え、逃れたものは宙へ集う。


「白城さん、あれは」

「わかりません。ですが少なくとも、霊脈の乱れから生じたものであることは確かでしょう。――来ます。皆さん、構えてください」


 白城の発言どおり、それらが宙で渦を巻き、収縮する。個々のサイズは蝙蝠よりひとまわりほど大きい程度のものだったが、


「……何か、出てきます」


 隊員が思わずというように呟く。蝠大が形成した渦の中から、それを纏い、吸収するようにして、四つ足の獣のようなものが形を作る。強いて言うなら犬か、狼のようだが、シルエットは明らかに歪だ。もっと言うならば、

「――鵺」

 隊員の誰かの呟きに白城も頷いた。

「やはり怪異。数は」

「そこら中で。ただ、霊障の強度は低いです。問題はありません」

「わかりました。探知班、あれの発生源は」

「特定できています。ここから西北西へ200メートルほど」

「ありがとうございます」


 す、と呼吸をひとつ置く。状況は睨み合いだ。怪異に知性があるとは思えないが、すぐには襲ってくる様子はない。……もっとも、時間の問題だろうが。

 霊脈の乱れに由来する怪異なのであれば、その根源を塞がない限りは無限に湧いてくる。この場にとどまって目の前の怪異を討滅しようとしたところで、ジリ貧なのはこちらだ。

 だから、即座の判断で、白城は部隊へ指示を出す。

「これより、発生している怪異の討滅、及び怪異の発生源の特定と封印を行います。各班、戦闘員二名と探知班一名の三人一組で散開してください。基本的には各自の判断で進行し、異常があればすぐに私へ報告すること。今のところ、霊障強度は低いですが、決して油断はしないように。――総員」


 まず真っ先に突貫し、白城は告げる。


「――状況を開始せよ」


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