02 薄闇の蠢き
突入、という発声に対し、動きは静かだった。
待機を残した侵入部隊、約五十名が、大きく広がる瘴気の中心部へ向けて、警戒しつつ進んでいく。
「何が現れるかわからない。総員、厳戒態勢で進め」
言いつつ、自身も警戒を怠らない。木崎の班の編成は彼を含めて四人。特務クラスは東北圏における最大戦力だ。ゆえに、彼と青年は対角から挟むようにして接近している。
「奥へ行くほど瘴気が濃い。視界も悪いな」
呟いたとき、ひ、という小さな悲鳴が聞こえた。振り返ると、後方の警戒を任せていた隊員だ。確か、入隊してからまだ日は浅かった者のはず。
「どうした」
「あ、……その、隊長。今、そこに、何かが……」
彼女が小さく震えながら、瘴気の向こうを指さす。皆でそちらを見るが、音もなく闇が揺れるだけで変わったところはない。
「で、でも見たんです! そこを一瞬、何かが横切ったんです!」
「落ち着け。見たことは疑わない。どんな形が見えたか、覚えている限りで教えてくれ」
木崎の言葉に、彼女はたどたどしく答える。
「狼くらいの獣に、見えました。でも背中が大きく曲がっていて、翼と、大きな爪がありました」
「何だそれ。ガーゴイルか? 怪異の類か」
別の隊員の言葉に、わからない、と女性隊員は首を振る。
「そいつ、こっちのことは見向きもしないで、音もなく飛び去っていきました……」
「――待て」
不意に木崎が耳の通信機を押さえながら手のひらを立てた。すぐさま全員が、やや状況に脅え始めていた女性隊員までもが瞬時に身構え、周囲の警戒体勢に入る。それこそが日々の過酷な訓練の成果だが、今はそれを喜んでいる場合ではない。木崎は通信機からの報告に数度頷き、二、三の支持を飛ばすと、通信から視線を戻した。
「――観測班からだ。瘴気の移動が止まった」
「……! それは、つまり」
「この瘴気の中心の、仮に怪異としておくが、その怪異がこちらの動きを感知して、反応しているということだろう。この怪異には、どの程度かはまだわからないが、意思を持っているということになる。――それから、もうひとつ」
木崎は、先程何かを見たという女性隊員へ視線を向けた。
「各隊から、瘴気の向こうに怪異らしき姿を複数垣間見たという報告が次々と上がっている。向こうの、錦織の班の方でもだ。今のところ攻撃された隊はないが、警戒レベルを上げろ」
了解、と各員が応じ、それぞれに携帯している符を確認する。全員が確認するのを終えて、木崎は頷いた。
「準備はいいな。さらに進むぞ」




