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市子さんは流浪する  作者: FRIDAY
肆:暗がりの奥で眠る記憶を
133/148

29.否定

 身体に受ける衝撃を、もう初めほど感じられなくなってきた。全身の感覚が鈍く、重い。視界は霞んでいる上に、揺れる。

 ……ああ、もう。

 痛みすら、よくわからなくなってきた。

 視界が回るたびに、意識が寸断される。記憶が細切れになっていく。

 それでも、不確かな意識のまま、何度目かもわからない回数立ち上がり、狐へ向かい、拳を構える。いや――自覚はない。ほとんど無意識に、身構えている。

 また回った。

 

 また落ちた。


 また霞んだ。


 五感にノイズのような震え。瞬間、狐の立ち位置が変わっていた。いや……違う。自分の位置も変わっている。両者とも、動いたのだ。それを自覚していないということは……どれほどか、意識が飛んでいたということか。


 ピントの合わない視界の動きで、辛うじて、自分が立ち上がっていることを把握する。自分の意志で動いているはずなのに、意志は身体を手放しかけている。それならば、身体を動かしているのは何なのだろう。

 向かっていっても、何度迫っても、絶対的な力で捻じ伏せられるだけ。痛い。苦しい。辛い。それなのに、どうして身を起こす。立ち上がる。

 なぜ、と自問する。それでも、と抗う。


 意識が混濁する。


 正面の狐。

 イグサの香り。

 炎。

 修練場の壁、天井。

 狐の纏う風。

 鮮血。

 はらわた

 生命の失われた瞳。

 化け物。


「ああ――」


 わかっている。これは、違う。今の光景ではない。

 ただの、フラッシュバックだ。

 失ったもの。

 過去の、記憶。

 だから、


「ああ――!」


 違う。


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