21.守人と半血
半血。
それは、既に白城も見聞きしている言葉だ。先の図書館でも、その単語を調べている。しかし、
守人。
その言葉は、初聞きだ。
何だそれは。
「成程……守人と半血ね」
しかし、白城の困惑に反して樋川には何の滞りもなかった。思案するように指先で顎をなぞっているが、それは戸惑っているわけではなく、どう説明したものか考えているように見える。
「うーん……漠然と問われるのも答えにくいわね。あなたは、今どれくらい知っているの?」
「全く。園田先生がそう呼んだ何かがあるということ、それだけ。ゐつさんはもっと知ってるみたいだったけど、自分で調べなって。まあ、いつもの通りだね」
成程ね……と苦笑しつつ、もう少し思案する様子を見せてから、うん、と樋川は頷いた。
「そうね。それじゃあまず、大枠から説明しましょうか」
いい? と樋川は軽く前置きした。
「――この国にはどうやら、隠された歴史がある」
静かに、樋川は言った。しかしその内容は、戸惑いを禁じ得ないようなものだった。
白城の表情を見て、樋川は苦笑する。
「いきなり何を突飛なことを、って思う?」
「は、はい……隠された歴史、だなんて」
そんな、小説か何かのようなことを。
白城だって、極東史は学んでいる。小学校から何度となく習っているし、高校での選択科目も極東史だ。しかし、そんな空想めいたことなんて露ほども出てきた例はない。
でもね、と樋川は言う。
「どうやら園田先生は、それを確信していたようなのよ……誰かが、意図的に隠匿した歴史。それも、どうやら相当古い時代から……現代の極東史は、これでも随分中立的な視点で書かれるようになってはいるけれど、数世紀前までの極東史はそのまま皇統史だったって言われて、頷ける?」
市子と白城にどちらともなく向けられた確認に、白城が頷く。実際、それは学校で習うもののみならず、守護連での座学で触れられることだ。
極東を語るにおいて、神道を省くことはできず、それと同じだけ皇統を外すことはできない。なぜなら、
……守護連は、そもそも皇室を魑魅魍魎から守護するために始まった。
白城は、そう聞いている。
「皇統史はそれでも一応、歴史としての確証性は認知されているわね。でも皇統史はもっと遡ると記紀史――神話の時代にまで遡ることができる。つまり、」
この世界は、神話の時代から連綿と続いている。
樋川は、はっきりとそう言った。それは比喩か冗談か、と白城が見るも、樋川の表情には冗談の色は欠片もない。市子は黙って聞いており、続きを待っている。
「……神話の時代から、ですか」
どうしても黙っていられなくなった白城が確認するように問うと、樋川は苦笑した。
「そうよ。この導入が突飛過ぎて、園田先生は学会で敬遠されていたのだけれどね。私も、面白いとは思っていたけれど、全然本気にはしてなかった……ゐつさんと会うまでは、ね」
ゐつ。またその名前だ。けれど樋川はその点にはもう触れず、話を進める。
「古の時代、この世界にはとてもたくさんの存在が在った。それは決して人のみならず、いわゆる妖怪、魑魅魍魎、そして――神もいた」
物語るように、樋川は語る。




