14.懸念
古都最大にして、西国最大の図書館。西京図書館の規模はさすがに東国最大かつ極東最大を誇る国立東都図書館からは一枚落ちるが、それでも大きいものは大きく、見るものを圧倒する。さらに言えば、極東内で発行されたすべての書物を保管する蔵書館としての機能にのみ集中して造られた東都図書館が備えているのはある種の機能美というものだが、西京図書館が有するのは計算された洗練美だ。図書施設という本来の機能だけでなく、他にも様々な施設を内包し、利用者を飽きさせない。
その、入り口。
「私、実を言うとここに来るのは初めてなんですよね……」
西京図書館は本館を見上げ、圧倒されている白城に、横に立つ向枝は小さく笑った。
「そういえばそうかもしれないわね。事務仕事が増えるとよく来ることになるわ……守護連の書物庫にないものは大抵ここにあるし、東都図書館よりも近いから。中には喫茶店とか、食堂もあるの。本好きにとっては楽園かもしれないわね。一日中居られるから」
と、そこまで言ったところで向枝は申し訳なさそうに白城を見る。
「本当に御免なさい。仕事がなければ、この後も一緒に行けるんだけど……」
「大丈夫ですよ。私だけでなんとかします。そもそも私が指名された任務ですし」
既に中に入っていった市子が振り返り、「白城さーん」と無邪気に手を振ってくる。
「戦闘にもならないでしょうから、それほど気負わずにいようと思います」
そう、白城が敵意を起こさなければ、戦闘にはならないはずだ。だから。
「任せてください。私だって特務です。これくらいのことは、できますよ」
おどけるようにして言うと、ようやく向枝は頷いた。
「それじゃあ、任せるわ。もし何かあったら、すぐに私か高坂にでも連絡して。大事はないと思うけど……」
はい、と白城は精一杯平気な顔で頷くと、迎えに一礼して市子らの方へ歩いていく。利用者ゲートのところで市子、狐と合流し、中へ入っていった。白犬はというと、今回も外で待機しているようだ。
見えなくなっていく白城の背を見つめながら、向枝は独白する。
「……あの子が何の意図をもって白城を指名したのかはわからないけれど――園田・未代。私の方でも多少は調べておいた方がいいかしらね――」




