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市子さんは流浪する  作者: FRIDAY
肆:暗がりの奥で眠る記憶を
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10.待ち人の正体

 

 

「向枝さん、これって一体……」

 警戒の色など皆無な白犬と向枝の空気に困惑した白城が、向枝を見る。

 白犬の姿は、白城はよく覚えている。というか忘れられるはずがない。

 狐とともに、あの少女の傍にいたからだ。

 つまりは、宿敵であるはずで――

「あの子は先に待っているのよね?」

「うむ。恐らくこの店の甘味を片端から食しているところに御座ろう。中に入ればすぐに見つかるかと。――拙者に気遣いは不要で御座るよ。拙者は犬。こういった施設には立ち入ることはできん」

「わかったわ。有り難う――白城」

 険悪な雰囲気などまるでないままに両者は言葉を交わし、向枝は白城へ振り向いた。

 あの子というのは、間違いなくあの少女だろう。

 でも、どうして。

 ……どうして、敵同士なのにこんなに和やかなの?

 疑問が心中に渦巻く。様々な憶測が飛び交い、最悪の想像まで生まれる。が、

「白城殿、でしたかな」

 不意に白犬が、白城へ声をかけてきた。なに、と反射的に見下ろす白城に、白犬は座したままに静かに言う。

「勘違いなさらないでほしく思うに御座る。市子殿は決して、守護連の敵というわけでは御座らん――敵対構図を取りやすいというだけで、好き好んで戦っているわけでも御座らんし、時には協力することも御座る。このたびのように」

「……でも」

「そういうことなのよ、白城。……難しい関係なのよ、私たちは」

 行きましょう、と向枝に諭されて、白城は唇を引き結んだまま、何とか頷いた。――混乱は収まったわけではない。けれど、ここで不用意に事を荒立てることもない。何より向枝が落ち着いているのだ。自分だけ取り乱しても向枝の迷惑になるだけだ、と。

 そう自分に言い聞かせて、白城は向枝の後に続こうとし――しかし一度、立ち止まった。

 振り返り、白犬を見る。

「……あの」

「何か?」

「……いきなり、すみませんでした」

 無礼なことを、と。白城は頭を下げた。

 対して白犬は。

 喉奥で籠ったような息を鳴らした。――笑ったのかもしれない。

「お気になさらず。お互いに、仕方のないことに御座るからな。しかしできるなら、市子殿には同じ対応をなさらんでいただけると有り難い」

 はい、と短く応じて、白城は顔を上げ、だが白犬に視線を当てることはせず、逃げるように振り切って店内に入った。

 

 


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