08.過去①
「あの子が守護連に確認されたのは、そんなに昔のことではないの。今からおよそ5年前――そしてそれは、調査によれば、あの子が恐山を降りてからのこと」
「恐山――そもそもどうして、恐山を降りたのです?」
「降りたというか……降ろされた、らしいのよ」
どこか難しい顔で、向枝は言う。
「あの子の体質……わかる?」
「体質……ですか?」
「そう。――集霊体質」
霊を集める体質――と、向枝はそう言った。
「それも、異常なほどに強力な、ね。ただ“在る”だけで、“よくないもの”を無尽蔵に集め続ける。そして、わだかまったそれらは、互いに干渉し合い――」
「――やがてより大きな災厄を引き起こす」
それは、聞いたことのない話ではない。条件が整えば、いつでも起こり得る現象であり、それらを解決していくのも、守護連の仕事だ。
だが、あくまでもそれは、条件が整った場合だ。
「たったひとりで……それも、ただ“在る”だけで、災厄を?」
「生活していた場所も、ちょっとよくなかったのよ」
「……恐山」
極東でも指折りの霊山だ。
それも、迷えるもの、まつろわぬものを集めやすい、“渦”のひとつ。
そこに、それほど強力な集霊体質者がいれば。
「……でも、恐山で問題が起こったという話は聞いたことがありませんけれど。恐山に生まれ育ったのなら、そういった問題がいくつも起こっていてもおかしくない、いえ、むしろ起こっていないとおかしいのでは」
「生まれ育ったわけではない……のよ。それも、わからないことのひとつでね」
向枝は白城の言葉を、わずかに否定する。
わからないこと。
「出生不明、なのよ。わかっているのは、あの子が恐山にて、とある高名なイタコに育てられた、ということ」
「高名な、イタコ」
「その方は、どうやらもう亡くなってしまっているらしくてね。そしてその方が亡くなられたときに、そのままあの子も山を降ろされた」
「降ろされて――それから?」
「よくわかっていない、わ。ただ、そうね、高確率でできる予想として――その後数年間のどこかで、あの子は“魔女”にコンタクトした」
「そうだ――それもわからないんです」
向枝の言葉を受けて、白城はもうひとつ思い出した。
「以前、任務中にも聞いたのですが、その“魔女”というのは、何者なんです?」
「それは……」
訊いたとき、向枝はこれまでの中で一番渋い顔をした。
「……“魔女”。“魔女”っていうのは、まあコードネームみたいなものでね。正確な名前は、多分守護連の中に知っている人間はいないわ」
「そんな……一体」
「最強の魔女」
端的に、向枝はそう言った。
「最高にして最強にして最悪の魔女。私も、直接に見たことはないわ。でもその逸話は有名よ。知らない人間はいないっていうくらい。――そうね、守護連の書庫に行けば、資料が結構あるはずよ。その中でも飛び抜けて大きいのは……」
数拍、向枝は置いて、言った。
「――“魔女”による守護連壊滅事件」




