02.流浪②
少女だった。
それも、酷く幼い。十を超えているかどうかという、年端もいかない少女だ。
服装は、質素な着流しで、絶対的に山歩きに適したものではない。足元に至っては草履である。何がどう転べばそんな恰好でこんな前人未到の山奥へ侵入することになったのか――遭難したのか、迷い込んだのか。だが、彼女が現在彷徨い歩いている地点は、人里からも、人の道からも遥かに離れた場所だ。
人の入り込むことのできない領域――だからこそ、樹木が鬱蒼と茂っている。その中を、不確かな足取りではあれど歩く少女は、これまでにもどれほど歩き続けているのか、全身が傷だらけだ。身に纏う着流しも至るところが細かく裂けており、その内の柔肌もまた、浅く裂けた傷口が無数にある。既に赤黒く固まっているところも、未だ真新しく真紅の滲んでいるところも入り乱れている。唯一、片手に提げた風呂敷包みだけは、多少は気を付けているのか傷は少ない。
全身を刻み続けられる痛みにあって、しかし少女に表情はない。痛みだけでなく、一瞬も立ち止まることがないのだから、その分の疲労も相当蓄積しているはずなのだが、しかし表情には全く表れていない。
少女は歩き続ける。
不確かで、危うげな足取りで――しかし止まらず、迷うこともない。それはまるで目的地があるかのようでもあったが、しかし崖や、沢や、難所に当たると躊躇なく左右に折れる。それも、反転しないというだけで、どちらへ折れるかはどうやらその場で決めているようだった。
目的地はない。だが迷うこともない。
その歩みは、まるで矛盾している。




