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市子さんは流浪する  作者: FRIDAY
幕間:あてもなく、道もなく
102/148

01.流浪①

 

 

 広く、高く、そして黒い空間がある。

 抜けるほどに広大なその空間は、黒く、しかし決して暗いものではない。

 無作為にぶちまけられたかのような光点が散らばっている。

 夜空だ。

 その大きさが目を見張るほど広大であるのは、その空気が澄み切っていることと、人の灯りがないためだ。

 山林地帯。

 頭上に戴く黒天ほどではないにせよ、延々と続く高山地帯だ。

 濃厚な木々の気配と、鳥獣の息遣い。

 それだけが支配している世界である。

 ここでは人は無力であり、ただ脆く、弱く、それゆえに人の姿はなく――しかしないはずの姿が、ひとつだけ存在した。

 鳥が啼き、獣は唸り、木々は風に鳴る。

 その中を、只中を、歩いていく人影がひとつある。

 ただし、決してまっすぐな足取りではない。

 もともと人の道など皆無であり、うねる木の根や石片で足場に平坦な場所など一歩分もなく、縦横無尽に伸びた、それも太く育った幹、枝がとても低い位置にまで伸び広がり、高木だけでなく低木、藪が群生し、まっすぐに歩ける空間が一メートルと存在しない。

 そこを単身、歩く人物がいる。

 いや、歩いているとは言い難い――ふらふらと、惑うような、まろぶような不確かな足取りだ。

 一歩進むごとに体勢を崩し、手近な古木に手をついて、小枝で頬を浅く切り、滲み流れる血を拭うこともせず。

 しかし、ころばない。

 転ぶことだけは、ない。

 

 


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