34.調査結果
「――なあ、イチゴよ」
「んー、何かなタヌキ君?」
「結局のところ、今回のこれは何だったんだ? オレサマにゃちとわからなかったんだが」
「ああ、まあそうだろうね。タヌキ君の頭には脳細胞が……」
「そーゆーのはもういいからよ。山にいたあの連中もよくわからねェし。説明してくれよ」
数週間前に歩いた道をのんびりと逆行しながら、市子は首を傾ける。
「説明って言ってもねえ……まだ、説明できることは何もないよ」
「しかし……市子殿。あの者どもが何者なのか、仮説程度はあるのでは?」
白犬の言葉に、まあねえ、と市子は頷いて返す。しかし、それを語ろうという意志は見受けられない。
白犬には、仮説どころか、一切見当がついていない状態だ。
獣の如き爪を、牙を、尾を備えた少年。
人間の領域を大きく逸脱した巨漢。
そしてそれ以外にも――市子らを取り囲んだ森の陰の中にも、他の者たちの姿を垣間見てはいた。
そして、その誰もかれもが、奇妙なシルエットを顕していた。
ある者は、少年と同じく尾を。
またある者は、翼を。
他にも、片腕が妙に巨大な者、爪の長い者など――ただの人間はひとりも見当たらなかった。
それはまるで――異形。
「人でもなく――それ以外の何かでない」
「その通りなんだけどね……まだまだ何とも言えないよ。言えないんだよ。彼らを指して何と呼べばいいのかもわからない。だから次の御仕事は、その調査、ということになるね」
「でもよォイチゴよ。わからねェのはそれだけじゃねェだろ?」
「そうだね。結局のところ、ゐつさんの術式を解いたのが誰なのかも――あのヒトたちと守護連との関係も、わかっていない」
わかんないことだらけだねえ、と市子はつぶやいた。さしもの私も、ちょっと困ったかな、と別段困った様子もなく言う。
『――君たちは、一体何者だ』
“それ”に対する処置が終わった後で、かの巨漢、ケイジは市子にそう問うた。しかし市子は率直に答えることはせず、何者かわからないのはお互い様じゃない? などと言って返した。
続けて、今度は市子から、守護連に関係したことをそれとなく訊いてみたのだが、
『それについて答える義理も、義務も、俺たちと君たちの間にはないだろう』
「ま、それもお互い様なんだけどね。ある意味で、それはそれでひとつの答えなんだけど」
嘘のつけないヒトだったねえ、などと、かの巨漢を評して市子は言った。そして、さて、と話を改めるように一呼吸置いた。
「わからないことがあるのはいつものことだ。ひとつひとつ調べて行くとしようじゃないか――というわけで、これから古都に向かうよ」
「は、古都に、で御座るか。ここから数百キロは御座るが……それはまた何故に?」
「ゐつさんからの指示でね。文献資料と、それに詳しい人がひとりだけいるから、その人のところに行ってみろって」
「それはまた……ゐつ殿の人脈は全容が把握できないに御座るな」
「ま、伊達に長生きしてねェってことだろ」
「またまたタヌキ君、そういうこと言ってたらまたゐつさんに綿抜かれちゃうよ――ともあれまあ、そういうことだ」
うん、と大きく伸びなどして、市子は吐息する。
「忙しいねえ……一体どこの誰たちが、何をしようとしているんだか」




