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きみのこえはきこえない  作者: 菜胡
第一章
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(2)視線

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 この町は一言で言うと不便だ。

 まず、交通手段というものがない。道路は車ばっかりでバスを見かけるのも稀だし、電車も通っていない。一番近いバス停や駅に行こうとなると、この町のはずれまで出ていかなきゃならなくなる。

 そんなことを言っていると、田んぼや畑が多い小さな町のように聞こえるが、それほど田舎町というわけでもない。それなりに広いし、建物や住宅も多いし、生活に必要な場所はすべて揃っている。それなのに殆どの交通手段が絶たれているというのは、これほどもなく異常なことなんじゃないだろうか。

 まるで、どこか周りから一つ遮断されたような――ここは、そんな町だった。

 そんな町の丁度真ん中辺り、住宅地に囲まれた小高い丘の上に大きな私立高校がある。俺や清水みたいなこの町出身の奴らが多く在籍しているが、一応県下でも有数の進学校のため他の町からも多く進学してきている。しかし、交通手段がないためそいつらは寮生活を余儀なくされている。梭鷺とかはそうだっけか、大変なもんだ。

 学校の建つ丘のふもと、迷路のような住宅地を抜け、清水が言っていた店に無事到着した。



「おめでとうございまーす!あなた方がこのキャンペーン最後のカップルです!というわけで、記念品をプレゼントいたしまーす!」

 店に入ると、店員にいきなりそう言われ、記念品とやらを渡された。俺と清水に一つずつ。どうやらストラップの様で、割れたハートとこのカフェの名前が書かれたプレートが付いている。

「利堂くん、これ二つ合わせるとハートになるよ!」

 おー本当だ。清水の言う通り、二つ合わせると割れたハートが一つになるらしい。

 カップルだったらこれは嬉しい……のか?正直俺はいらん。というか、俺たちはカップルでもなんでもないのでもっといらん。清水も「あんまり可愛くないなー」とか、店員の前なのにほざいているし、どうしたものか。

「あ、神奈と七夜だ」

「ん?」

 奥に進むと、見知った顔が二人座っていた。同じクラスの梭鷺神奈と、つたうるし七夜ななよだ。二人ともよく清水とつるんでいて仲がいい。まだ店に入ったばかりなのか、テーブルには手つかずの水が二つ置いてあるだけだった。

「あれ?霧ちゃんと利堂君?」

 二人の席に近づくと、梭鷺がこちらに気がついて反応した。同時に蔦漆もこちらを振り向く。

「あら、霧香。……と、利堂」

 俺の名前の時だけテンションが低いんだけど、気のせいだろうか。

「やほやほー!二人もケーキ食べに来たの?」

「うん。七ちゃんが誘ってくれたの。ここのケーキが美味しいって」

「あんた達も二人できたの?」

「そー!カップル割があるっていうから、利堂くん暇そうだし連れてきた!」

 無理矢理な。

 清水は奥の方に座っていた梭鷺の隣に座った。そうなると、俺は自然と蔦漆の隣に座る流れになる。しかし、蔦漆は明らかに嫌そうな顔をした。

「……ちょっと、なんで隣座るのよ」

「いやここ以外にどこ座れってんだよ」

「せっかく女同士で美味しいケーキを食べようと思ってたのに、あんたが隣にいるなんて、ホント最悪」

「……俺なにかしたかな?」

「別に」

 蔦漆はいつもこんな感じだ。どうやら俺のことが嫌いらしい。一応同じ委員会だし、今年の文化祭では一緒にクラスの出し物を引っ張った仲だというのに……。

 蔦漆は大きくため息を吐いて、テーブルの上にあった水に口を付けた。

「あれ、霧ちゃんが持ってるそれ何?」

 梭鷺が指したのは、先程貰ったハートの片割れストラップだった。

「あーさっきなんかの記念?で貰ったんだー。もう片方は利堂くんが持ってるよ」

「へー可愛いね。いいなー」

「そう?私いらないからあげるよ」

 清水はポイっと梭鷺にそのストラップを渡した。

「え、いいの?」

「あ、俺もいらねぇからやるよ」

「え?」

 俺も持っていたストラップを梭鷺に渡す。このままだと捨ててただろうし、これで無駄にならずに済むだろう。

「へーすごい、ハートになるんだ。二人ともほんとに貰っていいの?」

「いいよー、利堂くんとお揃いなんて嫌だったしー」

「俺もそのままその言葉をお返ししますよ」

 お互い睨み合っていると、店員が俺と清水の分の水と共に、注文を取りにやってきたので、一時休戦となった。



「きゃー!なにこれっ!すんごくおいしー!」

 ケーキを頬張りながら、清水は感嘆の声を上げた。

 テーブルの上は甘い香りで包まれている。それもそのはず。ここには色とりどりの鮮やかなケーキが三つ。そして、紅茶が入った花柄のポットがそれぞれ三つずつ、甘い香りを漂わせていた。

 ちなみに、俺の目の前には華やかさの欠片もない一杯のアイスコーヒーが、ポツンと置かれている。甘いものは苦手だ。

「ん、ほんとだ、美味しい!こんなチーズケーキ初めて食べたかも」

「そう、誘って良かった。――って、ちょっと霧香、ほっぺほっぺ!生クリームついてるわよ!」

「ふぁれ?あー気付かなかったー。七夜ありがとー。――あ、神奈!一口ちょうだい!」

「いいよ。はい。――七ちゃんも食べる?」

「ありがと。じゃあ神奈もあたしの一口どうぞ」

 ……なんだかなぁ。

 俺は一人、アイスコーヒーを口へと運んだ。

 同じテーブルにいるはずなのに、もうすでにあちらは女子会と化している。女三人男一人。三対一。……これは周りから見て一体どういう図に見えるのだろう。今日のように、この三人に付き合わされることは多々あったのだが、未だに謎だ。

「……利堂、なによじろじろと」

 俺の隣に座る蔦漆が訝しんだ目でこちらを向いた。

「いや別に……」

「言っとくけど、あんたにケーキはやらないから」

「へいへい、よーございますよ」

 そう答えたのに、蔦漆は未だ疑いの目でこちらを睨んでくる。

 ……元々、鋭く気丈な目をした奴だ。その鋭さは俺に向かうと倍にも増し、容赦なく突き刺さってくる。

「……黙っとけば可愛いのにな」

 小声のつもりだったのだが、聞こえてしまったらしい。ぴくっ、と蔦漆の顔が一瞬引きつった。

「何……?今、なんか言った……?」

「いや……別に」

 ……視線が、痛い。

「ここのケーキ全部美味しいね。あ、でも七ちゃんの作ったケーキもここぐらい美味しいよね。この前はフォンダンショコラだったっけ?」

「そーそー!あれ、すっごく美味しかった!」

「えっ、あれは暇だったから適当に作っただけよ」

 平然とした様子で紅茶を飲む蔦漆。しかし、カップを置いた時の顔は少し恥ずかしそうだった。

「蔦漆って、ケーキとか作るのか?」

「何?似合わないとでも?」

 ギロッ、と再び睨まれる。蛇に睨まれた蛙の気持ちがなんとなく分かるような気がした。

「七ちゃんはお菓子だけじゃなくて、料理全般得意なんだよね」

「家に誰もいないから、いつもしてるだけよ」

 そう言いながらも、少し嬉しそうだ。

「へーちょっと食べてみたいな。ケーキとか」

「は?甘い物嫌いなんでしょう?」

「まあ嫌いっていうか苦手っていうか……でも、蔦漆が作ったやつなら食べてみたいかな」

「…………」

 あ、視線が痛くなくなった。

「七夜のはホント、お店で売ってるぐらいおいしーんだよ!きっといいお嫁さんになるよ」

「なっ」

「へーそれは余計食べてみたいな」

 蔦漆はなぜか頬を赤らめた。

「だっ誰があんたなんかに作るもんですか」

「もー七夜ったら、恥ずかしがり屋なんだからー。ホントは利堂くんにそう言われて嬉しいくせにー」

「はぁぁ!?」

 ガタッ、とテーブルが揺れる。

「そっそんなわけないでしょ!こんなやつに、虫唾が走る!」

 この一日で女子二人に虫唾が走ると言われるとは……。

 そんな様子を見てもなお、清水は変わらずにやにやと笑っていた。

「素直になりなよー、この前利堂くんが学校休んだ時めっちゃ心配してたじゃんー」

「あれは、委員会の仕事が終わらないのを心配してただけよ。……って、なんの話!?」

「七ちゃん、顔赤いよ」

「こっここが暖房効き過ぎてるのよ!」

 ちなみに今は十月。まだ暖房は入ってないだろう。

「まあ落ち着けよ蔦漆。水でも飲め」

 とりあえずなだめようと声をかけると、再び強く睨まれた。

「うるさいわねぇ、あんたなんかにあげるケーキなんてないわよ!」

 そう言うと、そっぽを向かれてしまった。

 俺、なにもしてなくね?

「あーあー、利堂くん断られちゃったねー」

 清水が楽しそうにこちらを見てくる。隣の梭鷺も小さく肩を揺らして笑っていた。

 一体なんなんだ……。

 俺は氷で薄まってきたアイスコーヒーをすすった。


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