HR5分前
「出会ってしまったら――もう手遅れ。
真夜中に奏でられる、鮮やかなフルートの音色に」
/ HR5分前
「ねえ、利堂君。朝のニュース、見た?」
「ん……ああ、見た。もう八人目になるんじゃないか?」
あと数分で先生が来て、HRが始まろうとする頃。梭鷺神奈は俺にそう尋ねてきた。
窓際最後尾の席の俺は、机から体を起こしてそれに答える。昨日寝足りなかったのか、瞼がかなり重い。
「寮の近くだったから、学校来るの大変だったよ。報道陣がいっぱいで」
「ああそうか。一丁目だったな」
梭鷺は力なく笑う。でもその顔はどこか悲しげな表情だった。まあ、無理もない。
あんなことが、またもや身近で起こってしまったのだから。
「近くで起こったなら……梭鷺は夜、聞こえたのか?」
「え、なにが?」
「ほら……あの、フルートの音色だよ」
俺が聞くと、梭鷺は少し目を伏せた後、静かに首を振った。
「ううん。なにも聞こえなかった。昨日は疲れて早く寝ちゃったから」
「そっか」
「…………」
「…………」
沈黙が落ちる。もっと、明るい話題に変えよう。
「なあ梭鷺、あの……」
「気を付けてね」
俺がなにか明るい話題を切り出そうとすると、それを遮って梭鷺は言った。
「……気を付けてね」
何を――という前に、朝のチャイムが鳴り響いた。そして、扉が勢いよく開く音。
「おーい、HR始めるぞ!早く席着け!」
チャイムと一緒に入ってくるとは、なんとも律儀な先生だ。
「あ、来た。それじゃあね、利堂君」
梭鷺は何事もなかったように自分の席へと戻っていった。
なんだったのだろう……。ま、いっか。
俺は再び机に身を任せることにした。
***
都市伝説――それは、広く語り継がれる根拠のない噂話とされている。出所は分からない。でも、いつの間にか多くの人に広まっている不思議なものだ。
俺が住むこの小さな町にも都市伝説は存在する。
一体誰がこんな伝説を語り始め、一体誰がこんな伝説を広め始めたのか。
嘘なのか、本当なのか。
その真意は誰も分からない。
けどまあ、これは別に個人の捉え方の問題であり、信じる奴もいれば信じない奴もいる。
俺はどっちかっつーと、そんな曖昧なものは信じない方だ。
けれど今、俺の町には都市伝説と言っても過言ではないような、とある事件が起こっている。これは信じたくなくても信じるほかない、ゆるぎない真実。
連続通り魔殺人事件。
半年前からこの町で始まった、凶悪かつ最悪な殺人事件。これまでに老若男女問わず、八人もの犠牲者を出した。
犯人は未だに見つかっていないどころか、証拠すら全くない、不可解な事件。
その中で、唯一分かっていることがある。それは、犯行は真夜中でしか行われないこと。凶器は必ず刃物であること。
そして――フルートの音色と共に現れること。
この三つだけだ。
フルートの音色に関してはまだ噂話程度なのだが、いつの間にか、この町にはこんな言葉が広まり始めた。
「出会ってしまったら――もう手遅れ。
真夜中に奏でられる、鮮やかなフルートの音色に」
――と。




