目
あっさりと
それから、色々なダンジョンに潜った。
レフィナがパーティーに居ると言うことで、ユイスが行けなかったダンジョンにも行けるようになった。
主に、弱いが、敵の数が多いダンジョンだ。
タコ殴りにされると、ユイスではどうしようもないのだ。
その点レフィナはそう言う相手が大得意。
斧をぶん回し、千切っては投げ千切っては投げの大活躍だ。
流石に、強くて、数が多いダンジョンには向かうことは無い。
そういうところは六人パーティーでしか無理だ。
ダンジョンから帰って来た翌日は休日とし、その度にレフィナは全財産を放出すると言う凄まじい生活を続けた。
そして、ユイスは遂に決定したことがある。
レフィナを本採用するのだ。
馬鹿ではあるが、仕事はする。
馬鹿ではあるが、最近は考えて行動をするようになって来た。まだまだだが、マシにはなった。
良く食べるが、馬鹿をする。
そして夜は色を宿す様になった。ぶっちゃけ色っぽい。
一体どういうことだってばよ。
「では、行ってきまーす!!」
休日のこの日、レフィナはいつもの如く元気よく飛び出していった。
ご近所では、「パンツを食べる子」として有名だ。
時々、『私は悪いことをしました。※餌を与えないでください』と言う看板を首から提げて、玄関前で正座していることもある。
遠くから眺めているだけなら美人と、ご近所ではもっぱらの噂だ。
それを見送ったユイスは、装備を取り出した。
ユイスが装備している物と同じ、赤黒く輝く『祝福付き』。
性能もグッと上がる。
それも当然、これを入手したのは十二番ダンジョン。
魔物の数は非常に少ないが、出て来る雑魚は全てボスクラス。
魔石が全然手に入らず、時間もかかるダンジョンだ。
余程金に余裕のあるパーティーしか入らないダンジョンであるが、金に余裕があるユイスはそこに籠ったのだ。
そして延々と戦い続け、殺し屋の目を手に入れた。
普通のパーティーなら三日かかるその迷宮を、ユイスは二十日かけて走破する。
それを何度も何度も。
ドMとしか思えぬ所業であった。
ユイスはアクス、プレートメイルを取り出して磨き始めた。
どうせ唾液まみれにされるだろうが、渡す時くらいは綺麗でありたい。
しかし、レフィナといくつもダンジョンに潜っているが、宝箱が出ていない。
一人の時はあんなに出たのに、どういうことだろうか。
そんなことを考えながらユイスがアクスを磨き始めた瞬間、ドバーン!と玄関が開いた。
「パンツ忘れました!!ホブチュゥ!?」
たぶん前半は『財布忘れてパンツ買えないところでした』と言いたかったのだろう。
これでまたご近所さんに新たな噂が流れることだろう。
『ノーパン娘』として。
後半はユイスも解読は出来なかった。
レフィナはとても形容しがたい不思議な表情を浮かべ、ぶるぶると震える指でアクスとプレートを指差し、ユイスに向かって言った。
「ホ、ホッ、ホォォッッッ?!」
頼むから意味ある言語で話してくれ。
お隣さんから、『何だ?!魔物か?!』とか言う声が聞こえて来る。
ごめんなさい、馬鹿です。魔物じゃなくて馬鹿です。魔物以上の馬鹿です。
「……何だ」
ユイスは無表情に、しかし内心ではバツが悪そうに問いかけた。
「ホッ、ホケーッッッ!!」
レフィナは怪鳥の様な叫びを上げた。
ドアを閉めろ。外にダダ漏れだぞ。
しかしレフィナはドアを閉めることなく、四足でバタバタと駆け寄ってきた。
ものすっごく気持ち悪かった。
ユイスはここまで気持ち悪い生物を見たことが無いくらいだ。
レフィナは、ユイスの目の前で正座した。
「…………モッキョォ?」
いや、意味は分からんが、大体言いたいことは分かる。
ユイスは一度溜め息を吐いた後、頷いた。
「明日からこれを着ろ」
「ギャーッ!!!」
ユイスが言った瞬間、レフィナは絶叫して首に齧りついて来た。
ふがふがと鼻を流しながら体を擦りつけて来る。
どこの野獣だ。
しかも興奮のあまりに鼻血を流し始め、それをべたベタと押し付けて来る。
「……離れろ」
「ホゥッ!!」
ユイスが命令すると、レフィナは迅速に離れた。
鼻血で顔面血塗れにして、ギラギラと瞳を輝かせるレフィナ。
ユイスの服も血塗れだ。
レフィナは実は吸血鬼だったと言われたら、誰もが信じる様な場面である。
いや、これは猿だ。
テンションが上がり過ぎて、もうどうしようもなくなった猿だ。
レフィナには一体どれだけの可能性が秘められているのだろうか。
「良いか、落ち着け。まずは落ち着け」
レフィナの荒い呼吸を落ち着かせるように、ユイスはゆっくりと深呼吸を繰り返す。
「ホゥゥゥっ!!ホッ、ホッ、ホッ、ホォォォォォ……………」
レフィナもそれに合わせて深呼吸を繰り返していく。
段々と瞳に理性が帰って来た。
恐らくきっと正気に返ったと判断したユイスは、念のため確認を取ることにした。
「レフィナ」
「はいっ!!」
良かった。還って来た。
レフィナの理性があるうちに、必要事項を伝えておかねばならない。
話す順番が大事であろう。
「試用期間は終わりだ。お前は本採用だ」
「はいっ!!」
普通に考えて、一番大事なことは即座にスルーだ。
期待した瞳がユイスを見据え続ける。
「……まずは顔を洗って来い」
「はいぃぃぃっ!!」
言うや否や、レフィナは迅速にすっ飛んで行った。
その間に、ユイスも服を替えに行く。
ここは殺人現場ではないのだ。
ユイスが戻ってくると、レフィナも戻ってきていた。
先ほどと全く変わらぬ場所で正座し、ギラギラした目で装備を見つめている。
「ハァッ!ハァッ!ハァッ!」と荒い呼吸が聞こえて来る。
いよいよ、レフィナにとっての本題に入らなければならないだろう。
「こいつは貸してやる」
「ふへぇ!!ふへ、ふへへへへ、へへへへぇ!」
とても形容できない気持ち悪い顔になった。
あえて言うなら、顔が『グチャッ!』となった。
斧に、鎧に縋り付き、「ぐひゅー、ぐひゅー」と、どこから出しているのか予想もできない声をあげている。
一心不乱である。
しかし、レフィナは元々は財布を取りに戻って来ただけであろう。
買い物は良いのだろうか。
「……買い物は良いのか」
ユイスは思わず突っ込んだ。
「いいんれふぅ。き、きょうはぁ、こにょこといっしょにいまひゅぅ。ぐふっ、ぐふへぇ」
ろれつの回らない声が返ってきた。
レフィナは『終わった』。
しばらく帰って来ないだろう。
「そうか」
ユイスはそのことを理解すると、レフィナに背を向けた。
一路、玄関に向かう。
「ああっ!包まれてるっ!!包まれてるぅっ!!」
後ろからレフィナの声が聞こえて来る。
恐らく、鎧の中に侵入しているのだろう。
ナメクジの様に。
「…………」
ユイスは家を出た。
アレと同じ空間になど、居たくは無かった。
街中をうろついたり、ソウルフレンドと話して時間を潰した。
日が暮れきってから帰宅すると、レフィナは正気に返って来ていた。
しかし鎧がテカテカと輝いていた。
斧には血が付いていた。
ユイスは、そっと油と布を取り出した。
「ご主人様っ!!」
正気にはなっていても、まだまだテンションの高いレフィナが絡んで来た。
お前はもう寝てろよ。
「……何だ」
「私、超頑張りますっ!!もう、何でもしますっ!!子供でもなんでもどんとこいですよ!?」
何という発言だろうか。
これで、レフィナで無ければ。
「……ダンジョン潜れなくなるだろうが」
「ッッッ?!?!」
レフィナは愕然とした顔で立ち上がった。
『確かに!』と、顔に書いてあった。
翌日に向かったのは、六番ダンジョン。
何故そこには向かうかと言うと、弱い雑魚が多いからである。
ぶっちゃけ、余裕であろう。
興奮しているレフィナを難易度の高いダンジョンに連れて行くわけにはいくまいと判断した結果だ。
六番で無双させ、発散させてやるのだ。
そうしなければ、危なくて上級のダンジョンなど潜れるはずがない。
しかし、レフィナの装備は、ユイスと同じく同じ赤黒い発光であるにもかかわらず、印象が違う。
ユイスは言わずもがなであるが、レフィナは堕天使のような感じだ。
不公平だ。
そして詐欺である。
ユイスがそんなことを考えている間に、レフィナは暴れまわった。
良い笑顔で大暴れだった。
奇声をあげながらの大立ち回りである。
いい感じで発散できているようだ。
結果、そのダンジョンは半日で走破しきった。
それを見て、ユイスは新たに奴隷を雇うことを決めた。
最近理解して来たが、レフィナはどう考えても奴隷を止めるつもりが無い。
コイツの貯蓄はゼロ。
つまり延々と引っ付かれるわけだ。
そうすると、バフの良さを広げる、と言う当初の目的が果たせないのだ。
翌日早速購入に向かった。
レフィナは置いて来た。
あいつを連れて来るメリットは0どころかマイナスにしかならないだろうから。
「あ!」
店に入るや否や、そんな声が聞こえて来た。
「?」
いつか見た商人だ。
彼はユイスを見るや否や、小走りに走り寄って来た。
「お、お客様、こちらに」
そしていそいそと小部屋に案内される。
一体どういうことだろうか。
ユイスは案内されるままに小部屋に通され、席に着いた。
その向かいに着いた商人は、非常に申し訳ない顔を浮かべている。
「お客様、その、また購入されに来たのですよね?」
「ああ」
それ以外に来る理由はあるのかと聞きたい。
いや、あった。
あの馬鹿を売りに来る可能性だ。
だがそれならレフィナを連れて来るから分かるだろう。
「その、大変申し上げにくいことなのですが……」
「?」
品切れだろうか。
「その、お客様にご購入されるのをですね、奴隷の方が拒否をしておりまして……」
「……何?」
驚天動地の事実だ。
まさか奴隷の方から拒否されるとか。
聞いたことも無い話である。
一体どういうことか。
「あ、あのですね!」
商人は怯えながら、慌てて説明を始めた。
纏めるとこうだ。
あの馬鹿は有名になった。自由に外を歩かせたりしたからだろうか。
そして、あの馬鹿と一緒にダンジョンなど真っ平御免。命が幾つあっても足りやしない。
更に、あの馬鹿とダンジョンに潜れるような人間は頭がおかしいに違いない。
見た目通りに。
そういうことだった。
更に、やんわりとあの馬鹿の買取りも遠慮された。
とんでもない地雷物件であった。
「と、いう訳でして。はい、その、大変申し訳ございません……」
「……分かった」
ユイスは頭の中が真っ白になりながらも、ふらりと立ち上がった。
そこからは何があったのかは分からない。
ただ、気付いたら家に到着していた。
「あ、おかえりなさーい!!」
元気の良い声が出迎える。
ユイスはふらりとレフィナを見つめた。
レフィナはぱちくりと瞬きした後、何を勘違いしたのか頬を染めだした。
こいつと、か。
もはや、こいつから逃れられぬ定めに足を踏み入れてしまったと言うのか。
呪いの装備より厄介ではないか。
……いや、ネガティブに考えるのは駄目だ。
パーティーメンバーは手に入れたではないか。
そうだ、こいつも意外に頼りに。頼りに、頼りに……。
「え」
レフィナは目を丸くしてユイスの顔を見た。
ユイスは、とても遠い目をしていた。
それはレフィナが初めて見る、ユイスの感情を宿した眼だった。
以降は二人で潜りつづけましたとさ。
はい、思い付きで書いたのでこれでネタ切れです。
次はプロットを書こう。
と言うかプロット書こうとしてお堅い話を考えていたら思いついて、つい投稿してしまったのですよね。
ハハッ。