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学習

五分前に書き終わりました

ユイスはレフィナにしっかりと名前を覚えさせた。

道を覚えさせるのは明日で良いだろう。

ユイスには、もう外に出る気力は欠片も残っていない。


「金の分配をするぞ」


代わりにユイスは、心臓を押さえて、ひゅーひゅーと掠れた呼吸を繰り返しているレフィナに一言かけた。

のろのろと顔をあげるのを確認した後椅子に座り、レフィナにもテーブルを挟んだ向かいに座る様に促した。


「はっ、はひぃ」


死に体のレフィナがのろのろと立ち上がり、堂々とおパンツが濡れていないかを確認しながら、ユイスの対面に着く。

二回目だからか、替えのパンツは必要は無かったのは僥倖だろう。

今のパンツまで使用不能になれば、明日までお股がスースーしてしまうところだった。

ぶっちゃけるとノーパンである。

致命的だ。

後で洗濯しないと。


ユイスはレフィナが席に着いた後、本日のあがり、その半分を取り出し、レフィナに渡した。


「お前の分だ」


受け取ったレフィナは、その重量に目を丸くした。

ダンジョンを走破した分の半分。

それは、今まで持ったことが無い量だった。


「こ、こんなに!い、良いのですか!?」


レフィナは一瞬で懐に抱え込み、『もう私の物だ!』と態度で主張しながらも叫んだ、

良いも何もない。

もう離す気など微塵も無いだろうに。

ここに、レフィナの脳と体が直結していない説が発生した。


「ああ」


ユイスは、レフィナと言う存在の不思議について特に悩むことも無く頷いた。

レフィナの奇想天外な行動を見る度に悩む必要はない。

ただありのままに、その狂った言動を受け入れるしかないのだ。


「ご主人様素敵っ!!大好きですっ!!」


レフィナは喜色満面に叫んだ。

なんてちょろい奴なんだ。

騙す方も簡単だろう。

騙して得などないけどな。


テンションのあがったレフィナは叫ぶだけに留まらず、立ち上がって、お行儀悪くテーブルに乗った。

更に手を伸ばして、ユイスの首に齧りついてくる。

頬を擦りつけられるたびに何だか甘い香りがした。

Oppaiがぎゅむぎゅむと押し付けられ、大きく形を歪めている。


小癪なレフィナの分際で誘惑しようと言うのだろうか。

しかしそんな罠にひっかかるユイスではない。

実に落ち着いた動作でレフィナを引きはがそうとした。


と、目の前にレフィナの顔があった。

そのまま、マウストゥーマウス。

更にぶっちゅーっと押し付けられた。


ぬぅぅ、タケノコスティックが成長しようとしている!

落ち着け、落ち着くんだジョー!あんなに練習したじゃないか!


ユイスはピンク思考に抗った。

これはレフィナこれはレフィナ、と念仏の様に祈りながらレフィナを引きはがす。

夜以外にビースト化してしまえば、レフィナにおかしな認識を持たれかねない。

そうなれば、街中で恐ろしい発言をしかねないのだ。


「お前の金だ。お前が何に使おうが文句は言わん」


実にCOOLに決まったことだろう。

しかし、ユイスは今立ち上がるわけにはいかない。

ユイスはCOOLに足を組んで、さりげなくお山を隠した。


「はい!ありがとうございます!」


ぺろりと唇を舐めたレフィナは嬉しそうに笑い、キラキラと輝く眼でお金を数えはじめた。


「い~ちまい、に~まい~」


リズムよく、一つ一つ丁寧に積んでいくレフィナを見ると、良いことをした気分になる。

そして金は数えられるんだな。


ユイスが暴れん坊を沈め終わる頃には、レフィナも金を数え終わっていた。


「えへへ」


レフィナは嬉しそうに、大事そうに金を抱えてニコニコと笑っている。

大金を手にしたことも嬉しいのが、ダンジョン探索で手に入れたお金、という事実が嬉しかったのだ。

レフィナからユイスに、とても感謝した視線が送られる。

何時まで経ってもその視線を止めない為、気恥ずかしくなったユイスは立ち上がった。

暴走していたトーマスも問題ないレベルまで落ちついたことだし。


「飯を作るぞ。手を洗って来い」


「はーい!」


レフィナは元気よく返事を返し、ユイスの後に続いた。

更に準備中等には、


「今日の料理は愛情満点ですよっ!!」


等と宣言し、張り切って作っていた。

材料費は全部ユイスだが。

愛情とは一体何なのか。

とりあえず、料理の中にレフィナの髪の毛が一本はらりと落ちていた。

まさかこれが愛情なのだろうか。

ちゃんと取り除いておいた。


愛情の正体を掴めぬままに料理が終わり、食事となった。

メインとなる肉料理はレフィナに作らせたのだが、クレイジーな量を作っていた。

しかしこいつは喰い切るだろう。

間違いあるまい。


案の定、大皿に顔を突っ込む様にしてミートを貪り喰らうレフィナを見ていると胸焼けがするので、そちらからは視線を外した。

そうしながらも、今後の予定についての話を進めることにした。


「明後日にダンジョンに行くぞ。次は三番の、中級者に行こうと考えているが……」


まず明日は休みにする。

この馬鹿に、家の場所を教え込まなければならないのだから。

どうせ口で言っても覚える訳が無いので、連れ回す必要があるだろう。

そうすると、ダンジョンに潜るにしても微妙な時間になると考えた為だ。

また、一日戦った疲れもあることだろうし、手に入れた金も使ってみたいだろう。

それらのことを加味した結果、丸一日休みとした。


そして、明後日からはダンジョンだ。

実力的に考えても、初心者コースに再度潜る必要性はなさそうなので、一段レベルを上げることを考えた。

一応、念のためレフィナの意思も確認する。


「はい!大丈夫です!!」


案の定、レフィナは良い返事だ。

良い装備を着て、ダンジョンで思いっきり斧を振り回せればそれだけで満足に違いない。

そんな顔をしている。


「突っ込むなよ」


一応忘れないうちに、一度刺した釘を叩いておくことも忘れない。

中級レベルでタコ殴りにされれば、レフィナの命がピンチだ。

下手するとユイスですらピンチに陥る恐れもある。


「モウシマセン」


何か目が空虚で、やけにのっぺりした声だったが、レフィナは即座に頷いた。

それは機械的な動きだったが、気のせいだろう。


ユイスは気にせず、話しを続けた。


「今日よりも時間はかかる。そのつもりで居ろ」


馬鹿にも理解できるように話すのは大変だ。

出来るだけ短く、要点のみを絞り出して、伝えることを意識しなければならないのだから。


これくらいの長さなら、レフィナも普通に理解できるだろう。

ユイスの想像通り、レフィナは元気に頷いた。


「はい!……ちなみに敵はどんなのですか?」


レフィナは敵が気になるようで、逆にユイスに質問して来た。

いや、普通戦う敵は気になるものだろう。

しかしレフィナはそれに加え、ワクワクした顔を浮かべていた。

流石の脳筋だ。


しかしご期待に添える答えは返せない。


「同じだ。オレンジ色になって、大きくなっている」


「そうですかー」


レフィナはちょっと残念そうだ。

流石にゴーレムは飽きたのだろうか。

まあ、一匹残らず砕いていたし、確かに変わり映えはしないだろう。

レフィナは、もっと色々な敵と戦いたいのだろうか。


「中盤からは多少変わるがな」


「え!?」


ユイスが続けて言うと、レフィナは途端に瞳を輝かせた。

ワクワクと期待に満ちた目を向けてくる。

戦闘民族め。


ユイスはその顔を見て、ふと悪戯心を思いついた。


「楽しみにしておけ」


敵は秘密にしておこう。


「ええ!?うー!ううう……」


レフィナは眉を歪め、悲しそうな顔になって唸りはじめた。

教えてとせがんできたが、「知らない方が楽しみになる」と言うと納得した。

ちょろい。

本当に誤魔化しやすい脳みそだこと。


それに敵が変わると言っても、石は石なのだ。

見栄えが多少変わる程度である。

よって、レフィナの戦い方に変更など無いので、教えても意味は無いだろう。




その後、昨日よりもお互いの人となりが分かったためか、会話が弾んだ。

おかげでユイスは久々の日常会話を楽しめた。

レフィナは時々ぶっ飛んだ発言をするが、周りに人も居ない。

命の危険にもならないので、基本的に突っ込みはせず、スルーしておいた。

絡むとドツボに嵌まり、こちらが不幸になりそうな気がしたのだ。


他愛のない雑談から始まった会話は、段々と白熱して来た。

最終的には職業柄か、ダンジョン関係の話になっていった。


ユイスは、昔から気になっていたアクスと言う職についての質問を行いたかった。

別に羨ましいとかは考えてはいないのだが、ぶっちゃけソロ続きだったユイスには、他職のことで知らないことは多かったからだ。

聞く相手がレフィナと言うことが大きな問題点であることが推測されるが、一意見として聞いておいて損は無いだろう。

たぶん。

きっと。

そう思いたいだけかもしれない。

……いや、職業的な話は聞くのは止めておこう。

代わりに、戦闘で気になった点を聞いておこう。

うん。そうしよう。


「避けたり、受け止めないのか?」


一番気になったことは、この点だった。

如何に体が強靭で、スキルの効果もあり、また高性能な鎧を身に着けていても、痛い物は痛いはずだ。


「そうするとですね。こっちの攻撃の威力が落ちちゃうんですよ」


帰って来たのは意外にもしっかりとした言語だった。

ユイスは目を見張った。

いや、心の中でだけど。


「ほら、やっぱりこう、踏ん張らないと威力が出ないんですよ」


「ふむ」


考えて行動している。

ぶっちゃけユイスは、頓珍漢な返事が返って来ることも想定していた。

しかし、意外にもレフィナは考えて行動していたのだ!!

何故その思考を他の事にも費やせないのか。


「普段からもっと考えられないのか?」


そして、これこそが結論。

ユイスの願いでもある。

むしろ考えてくださいお願いします。

マジで。マジで……。


「…………がんばりますぅ」


情けない声が返ってきた。

そんなに自信がないのかお前。

やっぱりレフィナは不思議で溢れている。


「……」


ユイスとしては、これ以上レフィナに言うことは無かった。




その日の夜の事である。


「目がさえて眠れません!」


お金を手に入れたからか、はたまた明後日のダンジョンが楽しみ過ぎたのか。

レフィナはテンションが上がって、眠れないらしい。


「なら丁度いいな」


実に都合の良いことだ、と○妊薬を渡してやった。

大人しく受け取ったレフィナは、何とも言えない顔で薬を飲みほした。


「あのー」


コップを返しながら、ユイスの顔を伺う様に顔をあげた。


「何だ」


受け取り、飲んだ時点で拒否は許さぬ所存である。

てっきり連日はご勘弁を!とか言い出すかと思っていたのだが。


「優しくしてくださいね?」


頬を染めていた。

何だか乙女っぽい感じの顔と声だった。

レフィナの癖に生意気だ。


ユイスは返事は返さなかった。

代わりに、布を取り出し、口を塞いだ。


「ふぐぅ!?ふもー?!んももももぉぉぉ!!」


迅速にレフィナの発言を封じ、連行した。

布が涎を吸収できなくなるくらいには相手をしてもらおう。




「ふー、ふぅー……、ふー、っ……くぅ……ぅぅ、んっ……」


猿轡を外しても言葉を発しないレフィナを見て、ユイスは反省した。


うーむやりすぎた。

ノってくると、レフィナでも色っぽくなるのだ。

それに口を塞いだせいで、ギブアップ宣言が聞こえなかった。

二日目では酷だったろう。


でも、何故かドキがムネムネしたのだ。

口を塞いだだけなのに何故だろうか。

その答えはユイスには分からなかった。

ただ、とても、よろしかったことだけは覚えておこうと思う。

明日もやろう。




翌日。

予定通り、レフィナに家の場所を覚えさせることにした。


「行くぞ」


朝食を取った後、レフィナを連れ出す。


「はい!お願いします!」


昨晩はあんなに酷使したのに、レフィナは元気いっぱいだ。

しかし、朝に回復魔法をせがんで来た。

体力はあるのだろうが、集中酷使の結果だろう。

慣れるにはもうしばらく必要か。


不埒なことを考えるユイスは、表情には微塵も現さない。

相変わらずの殺し屋面で、道行く人を怯えさせながら一直線に歩き、大通りに出て立ち止まった。

そこで後ろを振り返り、角にある建物を指す。


「ここが目印だ。分かるな」


レフィナはその建物を見て首を傾げた。

見覚えはあるはずだ。

無いとおかしい。

頼むからあってくれ。

ユイスは祈った。


「えーっと、ここは…………」


その願いも虚しく、レフィナは悩みだした。

そんな馬鹿な、とユイスは絶望しかけた。


通りすがりの男達が苦悩しているレフィナに見惚れているが、そんなの知ったことではない。

お前達が頬を染めてみているこいつは、昨日自分が訪ねた場所すら覚えていない馬鹿なのだぞ!


そう叫びまわりたくなったが、当然ユイスはそんなことはしない。

いつも通りの無表情だ。

最初からこの調子なのか、とこれからの苦労を考えると戦慄しながらレフィナに答えを伝えようとした。

その時である。


「…………あ、昨日の!」


唐突にレフィナが顔を輝かせた。


ユイスの祈りが通じたのだろうか。

ユイスは心の奥底から安堵した。


その建物とは、衛兵の詰所である。

つまりは、昨日レフィナが迷子になり、泣きついた場所。

悩んだという事実は恐ろしいが、思い出せたので問題は無いはずだ。

きっと。


「そうだ。ここで曲がれば家に着く訳だ」


「なるほどぉ」


レフィナは何度も何度も頷きながら、大通りと詰所、ユイスの家へと続く路地を見比べている。

覚えようとしているのだろう。

昨晩ユイスが言った「もっと考える」を実行しようとしているのだ。


『何故もっと早くからそうしなかった』と言いたい気持ちはあるが、そんなことを言うのは野暮だろう。

こうして今、レフィナは成長しようとしている。

それだけでよいではないか。

ユイスは感動した。

感涙しかけたくらいだ。

無表情だが。


しばらく見比べていたレフィナの視線が止まり、ユイスの顔に帰って来るのを確認した後、続けてユイスは言葉を投げかける。


「三番はどっちか分かるか?」


するとレフィナはキョロキョロと大通りを見回す。

レフィナの視線が通るたびに、男達が身だしなみを整えていたりしていた。

しかしそんなことは全く気にせず、建物ばかりを見ている。


「んー……。あっちですか?」


恐る恐る、と言った風に、レフィナは指を指した。

正解だ。

記憶に微かに残っていた風景を思い出し、必死に拾い集めたのだろう。

ユイスはまたしても感激した。

感激のあまり干し肉を取り出し、レフィナに与えた。


「そうだ。行ってみろ」


ここからはレフィナに先導させる。

ユイスのに手にある肉を、手も使わず直接口でキャッチしたレフィナは嬉しそうに頷いた。


「ふぁひっ!」


もっちゅもっちゅと頬を動かしながら。




大通りには、数が少ないが良い匂いを漂わせる屋台が幾つもある。

この時間はまだ朝なので数は少ないが、ある。

レフィナは、その匂いに誘われるかのように、ふらふら~と屋台に誘い込まれていく。

ユイスはそれを掴んで止めた。


そうしながら、迷子になった一番の原因を理解した。

帰りは夜だったので、屋台のほとんどが営業していただろう。

そして、運動を済ませたばかりのレフィナは、一々良い匂いに誘われていたのだろう。

そうこうしているうちに、現在位置を見失ったのではないか。


「……買い物は後でしろ」


「はっ!?はい!!」


ユイスが釘を刺すと、レフィナは正気に返った。

口の端から僅かに溢れ出ていた涎を呑みこみ、決死の覚悟を決めて屋台から離れ、大通りを行く。


「うぅぅ……。鳥、我慢。お肉、我慢……」


考えていることをぶつぶつと呟き、左右にふらふらと揺れながらもレフィナは歩き続けた。

そして、三番ダンジョンのある建物まで辿り着けた。

流石にその建物は覚えていたらしい。


「よし、次は家に帰ってみろ」


「はーい!」


この近くには屋台が無いせいか、レフィナは元気に返事を返した。

が、帰り道はまたしても左右にふらふらと揺れ、ぶつぶつと呟きながら歩き続ける。

そして詰所まで辿り着くと立ち止まり、一度見上げた後に振り向いた。


「ええっと、ここですよね?」


「ああ」


やはり覚えてくれたらしい。

脳を使ったことも感動的だが、体でも大体の距離と方角は覚えただろう。

レフィナの顔を見てもまだ余裕のありそうな顔をしているので、ユイスは続けて覚えさせることにした。

パンツはちゃんと洗濯済みの物を装着しています

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