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バフ

新教

ダンジョンの探索はあっさりと進んだ。

何の問題も無くすんなりと。

強いてあげるとすれば、いちいち馬鹿がゴーレムの群れに突っ込もうとしたり、いちいち馬鹿が気持ち悪かった程度だろう。


戦闘が終わるたびに、レフィナはもう何か熱い目で装備を見つめている。

惚れてますわ、これ。

レフィナ(おんな)の近くに居る一人の男として、装備の方にその視線を持っていかれるのはどうよ、と一瞬思った。

思ったが、何故だろうか、全く悔しくない。

むしろ何故か胸を撫で下ろしてしまった。

世の中は不思議でいっぱいである。


しかし、馬鹿にはお試しで手ごろな(・・・・)装備を貸し与えたがこの有り様。

もし、あっち(・・・)を見せていたらどうなっていたことか……。

こいつにはあちらは(・・・・)見せないでおこう、と心に決めつつも、どんどん奥深くに足を進める。




ユイスには考えがあった。

初心者コースの中盤以降、ゴーレムが強化される。

今は運が良ければ一撃、悪くても二発目で確実に粉砕されているが、強化されたゴーレムならば。

それならば、基本的に二、三発へと変わるはずだ。

苦戦ということにはなるまい。

しかし、そこにバフを導入することで、ほぼ確実に二発で倒せる様になる。


感動は薄いだろうが、ありがたみは分かるはずだ。

まずそれで反応を見ようと考えた。

そんな時。


きゅー、くるるぅぅ


突然そんな音が聞こえて来た。

ユイスの背後からだ。


「?」


ユイスが背後を見ると、当然のごとくレフィナが立っている。

さっきまですごく楽しそうだったのに。

今は眉を顰め、ものすごく切ない顔をして、お腹を押さえていた。


「……お腹減りました」


正直なのは口だけじゃなくて体もなんだね。


ユイスも自分のお腹と相談してみたが、確かにダンジョンに入ってから半日程度は経っているだろうか。

しかしレフィナは昨晩と今朝、ものすごい量の食事を取っていた。

ユイスの三倍は喰っていたはずだ。奴隷なのに。

あれだけ食って、よく腹が減るものだと感心する。


レフィナを見るが、本当に悲しげな顔をしている。

目が合うと、途端にくぅーっ、と腹を鳴かせるほどだ。

犬か。

本当に空腹な様だ。


「……小休止にするか」


『空腹によって力が出なかった為』と言う死因は流石に哀れなので、餌を与えることにする。

ユイスは嘆息しながら、サバイバルな調理器具を取り出した。


「はい!ご飯ですね!!」


レフィナはとても嬉しそうな顔を浮かべ、俊敏に正座した。

両手にはマイフォークとマイナイフ。


ユイスは思った。

何で奴隷のこいつが喰う準備してて、俺が調理の準備してるんだよ、と。

手伝えよ。




手伝わせた。

10分くらいの簡単クッキング。

メニューは簡単、野菜スープと干し肉!


しかし野菜は二の次で、もりもりと肉を食い漁るレフィナ。

見ているユイスが胸焼けしてくる勢いだった。


その勢いは留まるところを知らず、ブラックホールさながらにミートを飲み込み続ける。

幾らなんでも喰いすぎだろう。

流石にユイスは心配になってきた。


「……動けるのか?」


プレートに覆われていて見えないが、物理的に腹が膨れているのではないだろうか?

そんな状態では、とてもではないが満足に魔物と戦えまい。

ユイスが心配するのをよそに、レフィナはケロっとした顔のままだった。


「動いた分は、食べないと駄目じゃないですか!」


恐らく多分きっと運動量のカロリーは摂取したと思う。数倍以上は。

ユイスは疑わしそうにレフィナを見やる。

するとレフィナは珍しく空気を読んだのかして、おもむろに立ち上がり軽くステップを踏み始めた。

『ほらこの通り余裕ですよ』と言いたいのだろう。

確かに軽快な動きだ。

マジで余裕そうだ。


しかし馬鹿は肉を咥えたままだった。

両手にも、大事そうに肉を持っている。

肉を大事そうに持ちながら踊り狂う様は、さながら肉を使って何かを召喚しようとしている邪教徒の様だった。

『お肉教』誕生の瞬間である。

滅びればいい。


そして土埃が巻き起こり、野菜スープに入った。

これがお肉教の効果と言うのか。肉以外は喰うなということなのか。

レフィナに責任を取らせたが、平気な面して飲み干していた。

クレイジーだ。




レフィナが一食分どころか、二日分の肉を貪った後。

ダンジョンのあがりから、馬鹿の食費分はしっかりと差し引く計算をしながら立ち上がるユイス。


「よし、行くぞ」


レフィナも続けて立ち上がる。


「はい!……うっ?!」


レフィナが呻き、腹を抑えた。


きゅー、くるるぅぅ


ユイスはその音に戦慄した。

レフィナの顔を見ると、また切なそうな顔をして腹を押さえているではないか。

まさか、あれだけ喰らってもまだ足りないと言うのだろうか?


きゅるるぅぅ……ぐ、るる……ぐぎゅるるるる


「う○こ行ってきます!!」


ユイスはレフィナから目を逸らした。


「……………………ぁぁ」


ユイスは、レフィナのことを『女』としてではなく、『レフィナ』と言う生き物だと考えるよう、心に決めた。

ん?

でも昨晩は『女』の顔をしていたな。


ユイスがレフィナと言う存在について悩み、葛藤し、結論を見送った頃。

すごくスッキリした顔のレフィナが帰って来た。

先ほどまでのレフィナより、少し軽くなっていること請け合いだ。




物陰に隠れたユイスが顔を覗かせて先の様子を伺う。

その視界の先には、またしても二体のゴーレムがうろついている。

が、よくよく見れば今まで戦っていたゴーレムよりも、二回りほどは大きいだろう。


「見えるか?飛び出すなよ」


ユイスは背後にいるレフィナに釘を刺しながら、声をかけた。

ぴょこんと物陰からレフィナの顔が現れる。


ユイスの視線を追ったレフィナが、ゴーレムを見て顔を輝かせた。


「おおお!あれが!って、変わらないんですね」


カクン、と残念そうに首を傾げる。

確かに遠目には、先ほどまで戦っていたゴーレムとの違いは分かり辛いだろう。

近づけば分かるものだが。


ちなみにレフィナはここまで来たことは無いそうだ。

辿り着く前に、パーティーメンバーのお手手をさよならさせたため、退場させられたそうだ。


「二回りほど大きい。多少強くはなっている」


ユイスは一応解説をしておいた。


「なるほど!」


レフィナは「なるほど」と言っているが、全く何も考えないままに頷いた。

近づいて斧を叩き込むだけなので、考える必要など微塵も無いのだ。


「では行ってきます!」


宣言と同時にレフィナはゴーレムに向けて走り出す。

物陰から出た瞬間、ゴーレムもレフィナを発見し、襲い掛かって来る。


近づくと、レフィナもゴーレムが大きくなっていることは理解できた。

しかしあまり強くなっていないことも。

ゴーレムパンチを喰らいながらも斧を振り回し、二体纏めてあっさりと砕いた。


違いと言えば、一、二発で倒せていたのが三、四発になっていたくらいだ。

ユイスの目算通りの結果である。

しかも、喰らうダメージはあまり変わらない。

問題などあろうはずもなかった。


更に進むと、またしてもゴーレムが二体うろついている。

ゴーレムをサクッとぶっ壊そうと、意気揚々と駆け出そうとするレフィナを、レイスが諌めた。


「まあ待て」


「はい?」


ユイスは、ここでレフィナにバフの恩恵を実感させることを決めた。

苦戦などしていないので実感できる効果は薄いだろうが、少しずつありがたみを分からせる作戦の開始だ。


「そろそろ俺もスキルを使う」


「バフですか?全然必要ないですよ?」


この正直さんめ。

確かに現時点でも戦闘に関しては必要はないだろう。

しかしそのことは問題ではないのだ。

この馬鹿にありがたみを分からせることこそが、目的なのだから。


ユイスはレフィナの正直すぎる発言をシカトして、バフを使用した。


脳筋仕様のレフィナ用と言うことで、身体能力が強化されるバフを選択する。

途端に、全身に装着していた重しを外したような感覚が広がる。

素晴らしい解放感。


「むむ?!」


その効果をレフィナも感じたのだろう。

目を丸くして自分の体を見下ろした。


ユイスは、更にバフを同時発動させる。

今度は防御力の強化だ。

目に見えない薄い膜の様なものが、体を覆う様な感覚が広がる。

膜に包まれてあったかいナリィ、と言う状態だ。


「おおお!これが噂の!」


ちなみに、バフを維持するのは、常に頭の中で歌っている様な感覚に等しい。

それを同時展開できるエンチャントなどそうは居まい。

ユイスは無表情のまま、内心でふんぞり返った。

心なしか胸を張った、様な気がしないでもないかもしれない。


バフを受けたレフィナは、具合を確かめる様に斧を振り回している。

側にユイスが居ようがお構いなし。

祝福付きでなかったら、ユイスが物理的に半分になりかねない。

何と言う危ない生き物であろうか。


「よし、行って来い」


「はいっ!!」


レフィナが元気よく頷き、走り出した。

バフの恩恵を受けた為、明らかに先ほどまでよりも早い。

ちょこんと垂れる三つ編みが背中につかないくらいだ。


レフィナはゴーレム二体を、二発で粉砕してみせた。


「どうだ」


ユイスは、無表情だが、内心は自慢げにレフィナに問いかけた。


「はい!誤差ですね!!」


この野郎。

やはりこの程度の敵ではありがたみを理解できないのか。

一撃一撃の火力の底上げが大事であることを理解するためには、やはりもっと強敵でなければならないのか。

しかし、今からそんなダンジョンに向かうには時間がかかる。

更に携帯食が無くなる。確実に。馬鹿のせいで。


「……戦いながらも維持できるぞ」


ユイスは苦し紛れに呻いた。が。


「そう言えばそんなこと言ってましたね!!」


明らかにどうでも良さそうである。

この脳筋め。


「……見ていろ」


損所そこらのエンチャントとは違うところを見せつけてやらねばなるまい。

ムキになったユイス(無表情)はそう考え、大人げなく証明することを決意した。


「……はーい」


レフィナはどうでも良さげ、どころか、自分の獲物が減ることに不満そうである。

これだから戦闘民族は困るのだ。




ユイスは進んだ先に居る一体のゴーレムと戦闘を開始した。

無論、戦闘中でもバフは維持したまま。

しかもその戦いぶりは見事の一言である。


一言で言えば上手い。

エンチャントであるユイスは、アクスの様に豪快でもなく、ツインの様に鋭くも無い。

そのユイスは、自ら攻撃を仕掛けなかった。

ゴーレムの攻撃を待ち、飛んでくるゴーレムパンチをスタッフで弾き、あるいは受け流し、返す刀でスタッフを叩き込む。

それに合わせた足運びは、一瞬も途絶えることも無く、しかし素早くも無い。

まるで、あらかじめ決められた動きがあり、それをゴーレムとユイスが再現しているかのようだった。


華麗。

まさに華麗。

このユイスの動きを見れば、誰も彼に決闘を挑もうなどと考え無くなるであろう。

ソロを極めたユイスの絶技に、ゴーレム程度が相手になるわけも無いのだ。


ユイスが六発目を叩き込んだところで、ゴーレムは砕け散った。

ドヤァ、とユイスがレフィナを振り仰いだ。


――欠伸をしていた。


ユイスの視線に気づいたレフィナが、「ヤベェッ!」と言う顔をして慌てて欠伸を噛み殺す。

お脳に回避の二文字が無く、『耐えて殴ればいい』と考えるレフィナには、ユイスの華麗な絶技など理解できないし、退屈なだけだったのだ。


レフィナが慌ててユイスを褒め称えた。


「本当ですねー。凄いですねー。でもバフ無くてもどうにでもなりますねー」


最後に要らんことも付け足しながら。


「…………」


ユイスは静かにキレた。

無表情だったし、バフは維持したままだったが、心のどこかで確かにキレた。


そして、バフのありがたみを理解させたところで使用し、更にありがたさを理解させるために取っていた、とっておきのバフを使用した。


「……お?おおっ?おおおおおおっ?!」


途端に、レフィナが目を見開いて、自分の体を見下ろした。

全身が淡い光に覆われていたのだ。


「えっ?何ですかこれっ?バフですかっ?!」


「そうだ」


ユイスはバフ維持を極め、更に複数同時使用を極めた。

その結果使えるようになった、とっておきだ。


レフィナどころか、ユイスでも聞いたことが無いこのバフ。

とっておきなだけあり、これを使用している時に他のバフを使用することは不可能だが、効果は絶大だった。


身体能力の強化。

防御力の強化。

ここまでは先ほどまでだが、効果が増している。

レフィナには関係ないが、魔法の強化もある。

更に、微量ながらも回復効果まで。


そして、荒ぶる心を沈めるのだ。

この効果こそが、このバフの最大の売りである。

いついかなる時でも、冷静な心を保てる。

例え疲れ果て、追い詰められた時でも、常に最善の一手を選べるようになるのだ。


このバフを常時展開できれば、どのパーティーでも引っ張りだこになること間違いなし。

そのパーティーを組むことが出来ないことこそが問題なのだが。


ユイスは奥に居るゴーレムを顎で指し、レフィナに指示を出した。


「あそこに居る奴らをやって来い」


「はいっ!!」


「え。嘘。軽い。軽ーい!!」と騒ぎながら、飛び跳ねたり斧を振り回していたレフィナが喜び勇んで駆け出した。

「うっひょ~っ!!」とか言いながら、風の様に走って行く。


ユイスは見る見る遠ざかるその背中を追いながら、『レフィナはあれが冷静である』ことを理解した。

では、興奮したら一体どうなってしまうのか。

恐いことを考えるのは止めた。


その間に、レフィナは二体のゴーレムを、それぞれ一発で粉砕した。

被弾はなし。

ゴーレムが攻撃する前に、二回も攻撃したのだ。


「す、凄いです!!これは凄いです!!」


「ああ」


さしものレフィナも、このバフの偉大さには気づいてくれたようだ。

いや、この馬鹿でも分かると言うことは、知性のある他の人ならこれ以上の大絶賛をしてくれることだろう。


「あははははっ!!かる~いっ!!あははっ!!あはははははっ!!」


しかしレフィナは物凄いテンションだ。

しかも、段々興奮して来ているように見える。

バフの効果があるはずなのだが、何故だろうか。


「ご主人様はもう後ろで引っ込んで見てるだけで良いですよっ!!私一人でも超余裕ですよ!!」


レフィナが調子に乗り始めた。

やはりバフの効果が効いていないのだろうか。

それとも、このテンションでもまだ『荒ぶる心』と認識されていないのだろうか。

だとすると、こいつの天井はどこまで行ってしまうのだろうか。

底知れぬ馬鹿に、ユイスは恐怖した。


そしてユイスが恐怖している間に、馬鹿(レフィナ)が勝手に走り出した。

通路を抜けた先にはかなりの大きさの広場があり、そしてそこには当然のごとく、無数のゴーレムがうろついていた。


レフィナは、そのど真ん中に突っ込んだ。

当然、全てのゴーレムは突っ込んで来た馬鹿にターゲットロックオンだ。


どれだけ高性能な鎧を着ていても、ダメージはある。

範囲攻撃で攻撃しても範囲には限界があり、次から次にゴーレムが襲い掛かって来る。

バフの効果で幾ら強くなっていても、無理なことは無理。

レフィナは身を以ってそれを証明してくれた。


レフィナの姿は、すぐ無数のゴーレムに埋もれて消えた。

恐らく、四方八方からひっきりなしに殴られてることだろう。

元気なゴーレムの破壊音が聞こえてくるので、ユイスは回復魔法の準備をしながらも使うことは無く、元気がなくなるまでは回復はしないことにした。

一人で余裕と言っていたし。


しばし後。

レフィナの姿が見えるようになった。

回復なしでも凌ぎきったのだ。


流石に鎧には傷一つないが、土埃か何かで、ものすごく汚れていた。

鎧だけではなく、全身ドロドロだ。

顔は汗まみれで、目が虚ろだった。

三つ編みもほどけており、ボサボサになった髪が、汗で顔にべったりとへばり付いている。

まるで幽鬼の様だ。


ぷるぷると震える腕で、やけにスローモーションな動きで斧を振り上げ、取り落とす様に振り下ろす。

それを幾度か繰り返し、遂にゴーレムが全て撃破された。

驚異的な戦闘能力だ。


左右にふらふら揺れるレフィナが帰って来る。

ユイスの元に戻ってくる前にバッタリと倒れ伏したので、仕方なくユイスから近づいてやった。


「……かひゅーっ、……こひゅー、……ひゅーっ」


レフィナの喉から空気が漏れ出す音が掠れ聞こえて来る。

ぷるぷると震える腕が救いを求める様にユイスに伸ばされた。


「……一人で余裕なんだろう」


ぱたりとレフィナの腕が力尽き、地面に落ちた。


「…………ごめっ、……い……、なおっ、…でっ、くだざっ、ぃぃ……」


治した後、しこたまSEKKYOUしてやる。

虫の息ですわ

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