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人々の研究  作者:
5/11

第5話:姉の研究・裏

 森本家長女、香澄の朝は筋肉トレーニングから始まる。

 30キロはある自然石を持ち上げたり振り回したり。ひと汗かいた後、シャワーを浴びてキッチンに行って朝食や弁当をつまみ食い。ついつい食べ過ぎておかずが無くなってしまったが気にしない。

 朝食を終えたあと、部屋に戻り登校の準備をする。

 部屋にある鏡には、180センチ以上の長身と、無闇に広い肩幅、大きい方なのだろうが肩幅の所為でバストというより胸囲と呼びたくなる胸、太い腕、スカートから覗く筋肉の形がはっきり分かる足、それら胴体の上には、ベリーショートの髪、きりっとした眉と少年のような瞳、にっと笑った口からは白く輝く歯がまぶしい顔が乗っていた。

 適当に格好のチェックを終えた香澄は、徒歩で学校に向かう。

 学校での香澄は、頼れる姉御としてそれなりに慕われていた。特にトラブルを力ずくで解決する事には定評があり、クラスメイトが暴走族と悶着を起こした時は20人の暴走族相手に大暴走。相手が乗っていたごっついバイクを武器に大立ち回り、全員病院送り。

 そんな香澄さんのお昼ご飯。弁当箱を開くと、中には「はずれ」とかかれた紙が貼られているだけ。

 弁当を前にしばらく考え込んでいた香澄は、ゆっくりと立ち上がると教室から出て行った。

 芳樹のいる一年の教室に入る香澄。ざわめいていた教室から声が消えた。香澄が教室内を見回すと、芳樹と目が合った。

「あ、姉ちゃん」

「姉ちゃん!?」

 芳樹の言葉に、机をはさんで向かいにいた雄二が驚いた。

 すっかり静かになった教室を、香澄がのしのしといった感じで雄二達の方へ歩く。

「芳樹、なによこの弁当は」

 そう言って差し出した弁当の中には「はずれ」とかいた紙が貼ってあった。

「だって姉ちゃんの所為で弁当が滅茶苦茶になったんだよ。だからはずれ」

「うー……」

 言い返せなくて唸る香澄。ふとした拍子に隣にいた司に気付いた。

「司、あんたの弁当よこしなさい」

「かすみちゃん、自業自得なんだから、弟にたかるのはやめようよ」

「姉に従いなさい!」

 香澄は司の襟を掴むとそのまま持ち上げた。司の足が床から離れる。

「かすみちゃん、ちょっとギブギブ」

 ふと香澄が芳樹の前に座っている雄二を見た。手の力が抜けた所為で司が床に落ちる。

「誰?」

「いたた、芳樹の友達で雄二君。かすみちゃん、かすみちゃんは迫力がありすぎるんだから、そんなに睨まない睨まない」

 司は雄二の方を向いた。

「雄二君、これは俺らの姉で香澄ちゃんっていうんだ。見ての通りちょっと野蛮だけど、中身も野蛮だから気をつけて」

「はあ……よろしく」

 雄二はおそるおそる香澄に挨拶をした。香澄は微笑みながら雄二に話し掛けた。

「ああ、よろしく。それにしてもパンおいしそうだね」

「……はあ」

 食欲なさそうに黙々とパンを食べる雄二をじっと見つめる香澄。

「そのパンくれたら私の体好きにしていいよ」

 食べていたパンを豪快にぶちまける雄二。

「かすみちゃん、パンで体売るのはやめようよ」

「あんたは黙ってて。今口説いてる所なんだから」

「かすみちゃん、そんな口説き文句ありえないよ。原始時代じゃあるまいし」

「じゃあ、あんたならどうするのさ」

「俺? 俺なら……そうだなあ」

 司はむせて涙目の雄二の頬に手を添えると、軽く上向きにして見つめ合った。

「雄二君……君の(自主規制)俺の(自主規制)口に(検閲削除)」

 雄二は涙目のまま思わず司を力いっぱいぶん殴ってしまっていた。

 その様子を見ながら、香澄は芳樹に雄二の事を聞いていた。

「彼はどんな子が好きなの?」

「雄二? 確か妹が好きとか言ってたよ」

 肩で息をしている雄二がふと振り向く。香澄は雄二に向かって飛び込んだ。

「おにいちゃああああああん!」

「ぎゃああああああああああ!」

 香澄のフライングボディプレスを間一髪かわす雄二。重い振動と共に、香澄の下敷きになった机と椅子がいい感じにひしゃげた。

「なななな何!」

 香澄のそばで尻もちをついた雄二が、泡を食ってわめく。

「芳樹! お前何を話したんだよ!」

「雄二は妹好きって」

「なんかもういろいろと違うぞ馬鹿!」

「じゃあ姉好き?」

「いや、ちょっと待て!」

「……そうだったの」

 香澄がゆっくりと起き上がった。

「さあ、この姉とめくるめくひと時を……」

 雄二はすでに教室を離脱して校舎圏からも脱出しようとしていた。

「とうっ」

 香澄は二階の教室の窓から外に飛び出した。ドスンと大地を震わせて着地した後、雄二を探しにダッシュする。

 司は教室の後ろに倒れたままぴくりとも動かない。

 残された芳樹は、弁当のうどんをすすった。

「やっぱりうどんだけじゃおかずにならないなあ」

 学校に予鈴が鳴り響き、非常に充実しつつもどうしようもない昼休みは、もう終わろうとしている。

 世界はやはり平和だった。

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