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人々の研究  作者:
4/11

第4話:兄の研究・裏

 森本家長男、芳樹の兄こと司の朝は華麗に目を覚ます事から始まる。

「眠い……」

 昨夜遅くまで『男達の処女宮』と『おなべ対決』というDVDを見ていたため、瞼が重い。

 またベッドに倒れこもうとするが、意志の力で踏みとどまる。のんびりしていると、筋肉達磨の姉に朝食を取られてしまう。

 司は自らの体にムチを打って、比喩でなく本当にムチを打って自分の目を覚ました。

 キッチンに行くと、姉がご飯にふりかけ代りのプロテインをかけていた。

「かすみちゃん、それうまいの?」

「おいしくない」

「ふーん」

 司が席に着くと、自分のご飯にもプロテインがかかっていた。

 朝食を終えた司は、自分の部屋で制服に着替える。そして鏡の前で自分の格好をチェック。

 細くまっすぐな眉、長い睫毛の瞳、すっと通った鼻、可憐な唇。見た目は世に言う美少年、中身は世紀の大変態が鏡に映っていた。

「よし、今日もいい感じ」

 家を出た司は自転車で学校に向かう。学校での司はある意味畏敬の念、というよりも畏怖の対象として見られていた。

 一年前、新入生の自己紹介の時、立ち上がった司を見てクラスの大半がうわぁ、と感嘆の声を出した。そして司の自己紹介を聞いて、クラスの全員がうわぁ……と引いた。

 司の伝説はここから始まった。特に夏のプールで女子のスクール水着を着て登場、驚いて詰め寄ろうとした教師が足を滑らせてプールに落下、それを助けようとして一緒におぼれた挙句に人工呼吸を要求した事件は語り草になっている。

 今日も実に充実した学校ライフを送った司は、自転車で家に向かっていた。

 自転車をこぎながら、司は昨日買って壊したPS3の事を考えていた。あまりの嬉しさに調子に乗って、PS3を亀甲縛りにして天井から吊るそうとしたら、縛りが甘かったらしく途中で落ちて床に激突。一度も電源を入れる事無く天に召されてしまうという失態。

「もっと勉強しないと」

 そんな独り言を言いながら司は家に到着した。

「ただいまー」

 司が玄関に入ると、靴が二足綺麗に並べてある。

 芳樹はいつも靴を放り投げて母親に注意されているのに、どういう風の吹き回しだろうか。

「兄ちゃんおかえりー」

 芳樹が玄関へと駆けてきた。

「どうしたんだ芳樹、靴をそろえたりして」

「あ、それ? 友達がやってくれた」

 芳樹が友達を連れてくるとは非常に珍しい。一体どんな友達だろうか。

 司がそんな事を考えていると、芳樹の部屋のある二階につながる階段から誰か降りてきた。

「あ、雄二、これ司兄ちゃん」

 司はじっと雄二を見た。短めの髪に元気のありそうな顔をしている。なんとなく合格。

「よろしく雄二君。芳樹が友達をこの家に連れてくるのは珍しいな」

 司は優しい声で雄二に微笑みかける。

「あ、はあ、よろしく」

 雄二は何か意表をつかれたような、意外そうな顔をしていた。

「じゃ、雄二、僕の部屋にいこう」

「あ、ああ」

 雄二は芳樹の後をついて階段を上がっていく。途中で雄二が振り向いたので、手を振っておいた。

「後でお茶でも持っていくよ」

 にこやかに言ってみたが、雄二の表情はますます不可解な物になっていく。

「そんな事しなくてもいいよ」

 芳樹は笑いながら司に返事して、二人は階段の上へと消えていった。

 司は洗面所で手を洗い、階段を上って自分の部屋に入った。

「ふー、落ち着くー」

 ゆるい独り言を呟きながら、司は制服を脱いだ。ふと部屋に違和感を感じる。

 ははあ、俺の部屋に入ったな。こういう所で勘の鋭い司は、自慢のDVDコレクションをチェックした。

 『きみはぺこ』『奈々8才』『熟女マニア』『ナンパ大作戦』の四つに動かしたような跡が見えた。これは芳樹ではない、芳樹はこんなバラバラなチョイスはしない。するとあの友人という事になる。

「中々有望な友人だな……」

 そんな物騒な事を言いながら、司はいろいろと下準備をした後、体操服とブルマに着替えた。それからキッチンにいき、お茶とお菓子を揃えて芳樹の部屋に向かう。

 部屋の前でノックしてみる。

「はーい、どうぞー」

 芳樹の返事の後、部屋のドアを開いた。

「お茶持ってきたぞ」

 司の姿を見て吹いてしまう雄二。

「わざわざそんな事しなくていいのに」

「こらこら、何もしなかったらお客さんに失礼だろ」

 雄二は何か言葉ををぐっと飲み込んだ。

 司は部屋の中にやってくると、雄二と芳樹の前にお盆を置いて、自分もその前に座り込んだ。

 雄二の顔がやや青ざめている。芳樹はいつもと変わらない。

「兄ちゃんもここにいるの?」

「お前が友達を家に連れてくるのは珍しいからな」

 司はさっさとコップを掴むと、一人先に冷たいお茶を飲んだ。雄二もコップに手を伸ばす。

 その時、司は雄二の目が自分の足を見ているのに気付いた。

「ん、気になる? 今日はお客さんが来てるから剃ったんだ」

「は、はあ」

 雄二はあいまいに返事をしながらお茶をちびちびと飲む。

「兄ちゃん足はいつも剃ってるじゃない」

「足? Vラインの事だぞ」

 そう言って司はブルマを少しめくった。

 雄二は飲んでいたお茶を霧状にして吹き出した。

「あーあー、雄二大丈夫?」

「げほっ、ごほっ」

 盛大にむせる雄二。芳樹は雄二の背をさすりながら司の方を見た。

「そういえば兄ちゃん、今日はブルマが盛り上がってないね」

「ああ、ガムテープでお尻の方に回して固定してるんだ。お客さんの前で恥ずかしい格好は出来ないからな」

 雄二は咳き込む中、何か叫ぼうとしているように見えた。

 ようやく咳がおさまった雄二は、お茶を飲みながら信じられない物を見る目で司の股間を見ている。

「……つっ」

 司が眉間に少し皺を寄せて呟く。

「どうしたの? 兄ちゃん」

「う……家族以外に見られるのはなんか新鮮で、ちょっと興奮してきて……いてて」

 雄二は飲んでいたお茶を唇の端から垂れ流した。

「兄ちゃん、お客さんの前なんでしょ? しっかりしなきゃ」

「いたた……大丈夫だ。こういう時の為に対策は立ててある」

 司はそう言うと、足を座禅のような形に組んだ。

「精神統一して煩悩を追い出す」

 司は目を閉じた。まるで陶磁で出来た人形のような顔になる。

 音の消えた室内。芳樹と雄二は固唾を飲んで見守っている。


 ぺり……ぺりり


 何かがはがれる音が聞こえてくる。

 司は薄目を開ける。油汗をかいている雄二の姿が見えた。


 ぺり……ベリリッ!


 最後の音に反応して雄二は二階の部屋の窓から外に飛び出した。

 バン! ドスン! という音の後に、雄二の足音がそのまま遠ざかっていく。

「ガムテープがッ、ガムテープがッ……!」

 錯乱気味で走る雄二の叫びが、段々小さくなっていった。

 司は一気に剥がれた衝撃と痛みで、体を丸めてうずくまっている。

 そのそばで芳樹はお茶を一口飲んだ。

「ふー、落ち着く」

 世界は今日も平和だった。

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