九月一日
「玲ちゃんは大人だね」って私が言う度に、彼女は「そんなことないよ」ってサラリと否定して、また見事にそんな彼女のスタンスは私のオトナイメージにピッタリはまって。
玲ちゃんは私と同じ14歳で、幼馴染で、身長もそんなに変わらないのに、なんだかとってもオトナっぽかった。
夏の終わり、蝉からマツムシにスタイルチェンジが始まっていたあの日も、玲ちゃんは夏色クールなオトナびたパンツルックで、一緒に咥えるガリガリ君が辛うじて私と玲ちゃんの繋がりをアピールしてくれていた。
夏休みが終わっちゃうやだな、なんてコドモみたいな愚痴を言う私に玲ちゃんは笑って、「ユメは子どもだね」って言った。「えーそんなことないよ」なんてふくれながらも、玲ちゃんの「コドモ」は他のオトナに言われるのと違って、あんまり嫌いじゃなかった。
「なんかこの夏が最後な気がする」
玲ちゃんは呟くように言った。
「え?何が?」
「コドモでいられる夏。
来年は受験でしょ、高校に入れても、今度は良い大学行くために夏だって必死に勉強しなきゃいけないんじゃない?大学生になってる頃には18歳で、コドモでいたいと思ってもきっと居られないよ」
「え、すごいね玲ちゃん、そんな未来ビジョンあるの?私ったら来年も再来年も遊ぶことしか考えてなかった」
こういう所が私たちの精神年齢や大きく離しているのだろうか。でも何だか「コドモでいたい」なんて玲ちゃんらしくないなって感じた。
「ユメはコドモだね」
「あーまた言った!」
私がふくれて、玲ちゃんが笑う。そして
「ユメが羨ましいよ」
ナイフが放られる。この時は気づかなかったけど、このコトバが私の脳髄に消えない跡を刻みつけた。
翌週、夏休みの開けた九月一日、玲ちゃんは学校からきりもみダイブし、奇しくも「最期の夏休み」をその身で実現する運びになったのだった。