初めての遠出
「おまえ名前なんてんだ?」年長の少年が聞いてきた
「康幸だよ。おまえは?」タメ口で言い返した。
「俺は啓太てんだよ」年長少年の名前がわかった。
「よし、ヤス!神社に行くぞ」啓太はリーダーシップを発揮し始めた。
神社までは康幸の家から3Kmくらいの距離で、まだ小学1年の康幸には遠い距離である。
神社は夏祭りの屋台が並ぶ場所で、毎年、車で両親に連れてきてもらうので始めてではないが、あまり遠くに行き両親から怒られまいかと恐る恐る啓太の後を歩いた。
康幸にとっては両親以外と行く初めての遠出である。
徒歩で向かう神社、両親と来る時は違う風景、時間が流れていく。
日向で昼寝する猫、腰を曲げてゆっくり歩きすれ違う笑顔のお婆さん、山陰に木霊するセミの鳴き声。食べ終わり捨てられたアイスの棒にアリの行列ができている。
「ヤス!ヤス~~!行くぞ!」前方から啓太から呼ばれる声がする。
キョロキョロしている康幸を啓太が車が来るのを教えてくれたりして気遣ってくれる。
何もかも新鮮で飽きない。もっと見たい、もっと聞きたい、もっと感じていたかった。
どのくらい歩いただろう。
喉も渇いたし、足がだるくて歩く速度が落ちている。
啓太「もうすぐだからな~神社行けば水飲めるからガンバレ」
疲れと喉の渇きと家から離れすぎた不安から今にでも涙がこぼれそうになる康幸。
啓太は泣かすまいと懸命に励ます。
啓太に手を引かれようやく神社に着いた。
「よし!水飲みにいくぞ~」
啓太の一言にどこから力が出たのか猛ダッシュで啓太の後を追い御神水をがぶ飲みした。
腹いっぱいに水を飲み込み空を見上げた。
太陽が大きく眩しく暖かかった。