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アステリア組曲 ~微笑みは誰のための祝福か。時を越えた約束が、世界を奏で始める~  作者: 沙莉
終わりの始まりの序奏(イントロダクション)

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第2話 夢であったと信じたい

見慣れた天井。


引き寄せた布団の感触も、わたしのものだと物語ってる。


ぼんやりと目を開けたわたしは、さっきまで起きていた出来事を思い出していた。



牛鳥が、ゾンビもどきを操って。


それを、吉田くんが戦って斃した。


しかも、剣とか魔法を使って。


「夢……だよね」


ぽつりと呟いて、わたしはごろんと寝返りを打った。窓際と、逆側に。


「……ええええー!?」


わたしのベッドサイドに椅子を運んで、長い足を優雅に組んでいるのは。


今日初対面の、吉田くんだった。


わたしは弾かれたように起き上がり、布団を自分へと引っ張った。


そして、ずるずると壁際に逃げていく。

もっとも、すぐに背中に壁が当たって、それ以上は逃げられないんだけど。


「どど、どうしてここに吉田くんが!?」


「どうしてって、藤森さんを送ってきたんだよ。気を失ってしまったから」


「てか、ていうか! 何で家を知ってるの!」


「何でも知ってるよ、藤森さんのことは」


再びパニックに襲われているわたしとは正反対に、吉田くんは落ち着いてにっこりと笑った。


目を細めて、わたしを見つめている。


「突然あんなことがあって、驚いただろう?」


「あんなことって……ねえ、あれは、夢じゃないの?」


それはわたしの願望でもあったんだけど。


吉田くんは、肩を竦めて立ち上がった。

そして、わたしのベッドサイドに腰掛ける。


やめて、急接近は怖いっ!


怯えたわたしに気づいたのか、吉田くんは伸ばした手をしばらく止め、そしてそのまま下ろした。


その手は、わたしの頬に触れようとしていたようだった。


何で、今日初めて会った人なのに……


わたしがその疑問を口にしようとした、その瞬間。


「彩花? 帰ってるの?」


パタパタと階段を上る音が聞こえる。


まずい、お母さんだ。


わたしは吉田くんのことを、どう説明しようか悩んでいたら、ノックもせずに扉が開かれた。


「珍しいわね、こんな早くに……あら、そちらはどなた?」


お母さんの目線が、スーツ姿の吉田くんに注がれる。


ベッドの端に逃げてるわたし。

ベッドサイドに腰掛けている吉田くん。


言い訳、言い訳しなきゃ!


「あのあのあのね、この人は……」


言いかけたわたしの耳に、ぱちんと音が聞こえた。



あの音だ。



朝、オフィスに入った時に聞こえた音。それに、わたしの机に座った時に聞こえた音。

ぞわり、と鳥肌が立つ、静電気のような音。


お母さんは、しばらく吉田くんを呆然と眺め、そして打って変わってにこやかに部屋に入ってきた。


「あらぁ、拓哉くん、遊びに来ていたのね?」


「ええ、お邪魔しています」


たくやくん……?


吉田くんは、それはもう見惚れるくらいに、爽やかで素敵な笑顔を浮かべた。

それを見て、お母さんもにっこりと笑う。


「お夕飯、食べて行くでしょう?」


何で、突然どうして!


わたしがわたわたとしているのにも関わらず、吉田くんとお母さんは、至って普通に夕食の話題なんかで盛り上がってる。


話をしている最中に、吉田くんはふとわたしを見つめた。


「どうせなら、近くにいたほうがいいか……」


そう呟くや、またあの、ぱちんという音。


お母さんは、目を瞬かせ、そして再びにっこりと笑った。


「拓哉くんの部屋、掃除しておくからね。それまで、彩花の相手でもしていらっしゃい」


「ありがとうございます、お世話をお掛けして申し訳ありません」


優雅に頭を下げる吉田くんに、お母さんは軽く手を振って部屋を出て行った。


わたしは呆然としてしまっていたのだが、笑みを浮かべたままわたしの様子を見ている吉田くんに、まっすぐ指を突き出した。


「な、何かしたんでしょ!! お母さんに、何をしたの!?」


「何って……少し、記憶を」


「記憶!? あっ! 催眠術みたいなことをしたのね! 会社の人たちにもそうなんでしょ!!」


「まあね。でもこれで、きみをいつでも護れるようになったし」


「いつでもって……ここに住み着くつもり!?」


わたしが眦上げて叫んだら、吉田くんは浮かべた笑みを寂しそうなものに変えた。


うっ……。


そんな顔をされたら、まるでわたしがいじめているみたいじゃないのよ。


「俺のことを、話すから。それから、きみのことも。だから、聞いてくれないか?」


そう捨てられた子犬みたいな目をされたら、わたしはもうそれ以上言えなくて。


何より、知りたかった。


吉田くんが、本当は何者なのか。


あのバケモノ達は何なのか。


吉田くんが、何のためにわたしを護ると言っているのか……。



わたしはベッドから起き上がり、吉田くんと正反対の場所に腰掛けた。


ベッドサイドの端と端。


だってこんな狭い部屋の中だし。吉田くん、大きいから、少しでも近づくと、触れ合いそうな距離になる。


警戒心むき出しのわたしに、吉田くんは首を傾げるようにして微笑み、形のいい唇を開いた。



わたしが、平穏無事に生活していた日常が、終わってしまう……始まりの夜だった。

現実であってほしくない。

目の前で起きた凄惨な戦いも、彼の振るった剣も、すべて夢だと信じたいのに。


静寂の中で彼が口にしたのは、聞いたこともない「わたしの本当の名前」だった。


――逃れられない運命の幕が、ついに上がる。


次回、新章「混乱への序曲オーバーチュア」開幕。

第1話「異世界名の初めまして」へ続きます。

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