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アステリア組曲 ~微笑みは誰のための祝福か。時を越えた約束が、世界を奏で始める~  作者: 沙莉
里帰りの小夜曲(セレナーデ)

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第2話  知らない世界、知っている温もり

城門に入ると、その左右に立っていた兵隊さんのような人たちが、わたし達に頭を下げた。


着ているものは、白を基調とした襟首と布のベルトが濃紺で、肩に飾り房が付いている。

手にした槍を立て、ビシッと背筋を伸ばした姿は、どこかの国の衛兵みたい。


そんな畏まられることに慣れていないわたしは、なんだか居心地の悪い気分で彼らの前を通り過ぎた。


延々と歩くこと15分くらい。

そこで、やっとお城の玄関が見えてきた。


「……広いんだね」


そう吉田くんに囁くと、彼はくすりと笑って頷いた。


「そうだね。アステリア皇帝の居城だから」


「そっか……」


「彩花の城でもあるんだよ? もう少し、楽にして」


そう言ってはくれるけど。


でも、覚えていないし……ぴんと来ないよ。


ふと、左側に目を向けると、建物に沿って少し曲がったその一角。そこに、庭園があった。


シロツメクサが、咲き乱れている。


緑のカーペットに、白く風にふわりと揺れるその姿……。


見たこと、ある。


わたしは、スーツにパンプス姿だということを忘れ、ポワンを抱っこしたまま駆け出した。


目の前に広がる、シロツメクサ畑。


「彩花様……?」


心配そうに、ポワンがわたしを見上げているけれど、ごめん、もう少し待って。


何か、思い出しそうなの。


揺れるシロツメクサをしばらく見つめ、そしてもう目の前にまで迫った、大きなお城を見上げた。

中世のヨーロッパのような、大きな白いお城。


知ってる……見た……


「彩花?」


いつの間に来たのか、吉田くんが私の横に立っていた。


その彼の、切れ長の瞳を見つめていたら、ふと彼の端正な顔が、あの夢で見た男の子と被った。


そうだ。


どうして忘れていたんだろう。


ここ、わたし、夢で見たんだった。


「ここで、レーリアはよく、シロツメクサで王冠を作っていなかった?」


まだ、レーリアという女の子がわたし自身だと言い切ることは出来なかった。


それは、記憶をちゃんと取り戻してからになると思う。

まだまだ、物語の中にいる女の子のような気がしてならない。


吉田くんは、それを咎めることなく、わたしの隣で、シロツメクサが咲き誇る庭園を見つめた。


その瞳は、限りなく優しげで、愛おしそうなものを見るかのようで。


わたしの胸が、ちくんと痛んだ。


……なんでかな……。


「作っていたよ。王冠や首飾り、たくさんのものを作っていた。手先が器用で、作っては城の者たちにあげていた。彼女は……きみは、自分が『祝福の女神』だと分かっていたからね。きみが作るものを受け取った兵士や侍女たちが、その幸福を少しでも分けてもらえると、それは喜んでいた。それを見て、きみはとても嬉しそうだったよ」


優しい、子だったんだね。

今のわたし……そこまでの思いやり、持てるかな。


何だか恥ずかしい。

自分のことしか、結局は考えていないような気がする。


わたし、ここに来て、よかったのかな。


皆は、きっとわたしをレーリアとして認識するだろう。


だけど、わたしは……まだ、彩花でいたい。

ううん、彩花でしか、いられない。


記憶を取り戻したい。

取り戻すのが、怖い。


まだ、わたしは迷ってる。


「わたしね、夢を見たのよ。ここで、金髪の女の子と、焦げ茶色の髪の男の子が話してた。あなたよ、吉田くん」


吉田くんは、目を細めてわたしの話を聞いてくれた。

その眼差しが、あったかくて、居心地がよく、包まれてる感じがする。


「へえ、で、その男の子の様子はどうだったんだ?」


ふいに尋ねられ、わたしは何も考えずにくすりと笑った。


「しくしく泣いてた。ええと、何ていったかな……そうだ、イスラン。イスランに、確かね、男は強くならなくちゃダメだと言われて、強引に稽古をつけさせられたって」


「はは、そうかそうか、泣き虫だったからなあ、ラディは。だがそのお陰で、今や我が軍の精鋭になれたじゃないか」


……あれ?


わたしは、違和感を感じて、右隣の吉田くんを再び見上げた。

吉田くんの表情は、困ったような、気まずいような。

目線は、わたしの頭上を飛び越えている。


わたしが、恐る恐る左に目線を移したら。


190センチはあろうかという背の高い、がっちりとした筋肉質の男の人が立っていた。


いつの間に! 全然気付かなかった!!


その男の人は、腰を屈めてわたしと目線を同じ高さにした。

うう、どアップ!


シェニムさんよりも、幾分か茶が混じったような金髪。

瞳は、鮮やかなマリーンブルー。


目元に笑みを浮かべ、その表情は優しそう。

ちょこっと、いかついけど……。


大きな手が、ぽんぽんとわたしの頭を撫でた。


「生で会うのは、本当に久しぶりだ。元気だったか、レーリア」


生でって……この人も、わたしを鏡を通して見てたのね?

やだよー、恥ずかしいってば……。

わたしの頬が、段々赤くなっていくのが分かる。


だけど、その男の人は、わたしの頭に手を置いたまま、屈めていた腰を戻した。

彼の横にシェニムさんが立ち、わたしに紹介をしてくれた。


「レーリア、彼はイスラン・イザーク・コンスタンス・エルハラード・アステリア。生まれた順番が一番先なので、まあ、立場上、私とあなたの兄ということになりますね」


「何なんだ、その説明は。何か文句でもあるのかよ!」


と、筋肉質の男の人……ええと、イスランさん。彼が憤慨してるけど、シェニムさんは涼しい顔のまま。


……変わった兄弟だなあ。


てか、わたしもこの兄弟の中の一人なのか……。


「ま、いっか。レーリア、遠慮するな。昔のように、『大きい兄さま』と呼べ、な?」


な? って言われても……。

わたしは困ってしまって、吉田くんを見上げると。

吉田くんも困り果てたように、深い溜息をついていた。


その後、前を歩くイスランさんとシェニムさんに付いて行きながら、わたしと吉田くんも城へと入っていった。

壁に、細かい細工が施されていて、手入れも行き届いてる。


「綺麗なお城だね、吉田くん」


そう、何の気無しに言ったわたしの言葉に、腕の中のポワンにスイッチが入ってしまった。


「まあまあまあ、彩花様、その吉田くんて呼び名、言いやすいのかもしれませんけれど、ここではちゃんとアステリア名で呼んだようがよろしいかと思いますのよ? これから、アタシもここではレーリア様とお呼びしますから。ええ? 恥ずかしい? 何て可愛らしいことを。ですけど、全ては慣れですわ、慣れ!」


……畳み掛けられてしまった。


「別に構わないさ、どちらでも」


そう吉田くんは苦笑混じりに言ってくれるけど。

でも、そうだよね。おかしなものかもね。


わたしは、歩きながら、隣を歩く吉田くんの袖を掴んだ。


「あのね……その姿だと、やっぱり吉田くんなの……」


わたしの言葉の意味に、気付いてくれたみたい。

吉田くんは、くすりと笑って頷いた。


次の瞬間、シュン、と空気が抜けるような音がしたと思ったら。


吉田くんの姿が、黒髪からビターチョコのような色合いに。

黒瞳が、澄んだ汚れない海の色になった。


同じ人なのに。

何だか別人みたい。


でも、だからこそ、わたしはこの姿の彼には、本当の名前を呼ぶことが出来るんだと思う。



「あの……ラディ……」


ああ、まだ少しだけ恥ずかしい。

だけど、そう呼ぶと。


吉田くん……じゃなくて、ラディは嬉しそうに微笑んだ。


「無理しないでいいよ。ゆっくりで、いいから」


そう言って、わたしの手をぎゅっと握った。


ラディのわたしを包む想いが、わたしに流れてくる。


怖くないの。

男の人に、手を握られるなんて。


今までだったら、絶叫をあげるか、走って逃げ出していたに違いない。


だけど、今は。

わたしの記憶に無い、この知らない世界に来てしまった今。


ラディの手の暖かさが、何よりも心強かった。

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