表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アステリア組曲 ~微笑みは誰のための祝福か。時を越えた約束が、世界を奏で始める~  作者: 沙莉
里帰りの小夜曲(セレナーデ)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/23

第1話 空飛ぶ竜と、秘密の手鏡

「一度アステリアに戻りますか」


そう、胡散臭げな笑みで告げた、わたしのお兄さんだというシェニムさん。


それって、ついさっきのことじゃなかったっけ?


なのになんで、わたし、こんな大きな乗り物に乗ってるの!


真っ黒い、細長い胴体に、ちゃんと数人乗りの鞍までついているそれは。

ゲームの世界での定番キャラ。


竜だった。


ふわふわと空気を操って、宙を舞うその姿は、きっと傍から見たら美しいだろう。

ツヤツヤとした毛並みだし、身体をくねらせるように空間を漂っている。


駄目だ。


一度、頭に浮かんでしまった曲がある。


それが全然、脳裏から消えない。


すると、隣に腰掛けた吉田くんが、地上を見下ろしながら、何か口ずさんだ。

低く、耳に心地いい声で奏でられる、滑らかな英語の響き。

それは、私が何度も繰り返し聴いてきた、あの物語の核心に触れるフレーズだった。


――物語は、決して終わらない。 


吉田くんは頬杖を付いたまま、私を見て、悪戯っぽく微笑んだ。


「……それ、ネバーエンディングストーリー!?  まさしくそれだー!!」


私が興奮気味に吉田くんを見つめていると、彼はくすりと笑って私の髪に手を伸ばした。


「今、この曲を思い浮かべてただろ?」


「どうして分かったの!?」


「はは、分かるさ。彩花の考えていることは」


吉田くんはくすくすと笑って、そのまま私の髪を弄び始めた。


ううーん。お見通しか……単純なのかな、わたしって。


それにしても、吉田くんてボディタッチが多いんだな。知らなかった。


……妙に、緊張しちゃう。


「二人の世界に、入らないで貰えますか? 一応、私もポワンもいるんですから」


またしても、わたしの心を読まれたような言葉が聞こえた。


黒い竜の首元で、手綱を握っているシェニムさんだ。


その言葉に、笑みは含まれていない。だけど、蔑むような感じでもない。

あんまり感情を表に出さない人なのかな……?


彼の横で、ポメラニアンのポワンがうんうんと頷いている。


「全く、ラディたら。あんなにデレデレした顔しちゃって。歌まで歌って! どういう神経してるんでしょうね。アタシたちの今の状況が分かってるのかしら。彩花様の魔力が漏れ出して、他国に見つかる可能性が大きいから、何とかしようと考えているときでしょうに! 信じられませんわっ!」


ああ、ポワンの弾丸トークが始まってしまった。


でも、それにしても。


「吉田くん、どうしてその曲を知ってるの?」


アステリアでも、放映されていたのかしら。……まさかね。


そう尋ねると、吉田くんは嬉しそうに笑って、わたしの髪から手を離し、再び地上を見下ろした。


ああ、町並みが、あんなに遠く小さくなっていく。


「彩花、あの映画をよく部屋で見てただろう? だから、曲も覚えてしまった」



「……どうしてそれを……」


確かに、わたしはネバーエンディングストーリーの第一作目が大好きで、小さい時に貯めていたお年玉でDVDを購入してしまったほどのファン。


わたしの部屋で、夜にこっそり一人でよく観てたっけ。

夜更かしすると、お母さんに怒られちゃうから、電気を消して、音量も下げて……。

ちなみに携帯の目覚ましも、この曲。


けど、どうして。


そのことは、わたししか知らないはずなのに。


吉田くんの笑みが、少し深くなった。嬉しさが、更に増した感じ。


「彩花の部屋に、小さいドレッサーがあるだろう? 

そこに立てかけた、小さな手鏡。分かる?」


「うん、あるけど……」


少し古ぼけた、小さな手鏡がわたしの部屋にある。


確かに。


「アステリアから、手鏡を通じて、彩花をずっと見てた」


……嘘。


「あれ、俺が彩花に贈ったものなんだ。地球へ旅立つ前の日に。覚えていないだろうけど………」


でも、普通の少しだけハゲてきちゃったけど、赤い塗り物の手鏡だよ?


あれが、吉田くんからの贈り物!?

わたしは、ぽかんと口を開けてしまった。


吉田くんは、首を僅かに傾げ、伺うようにわたしを覗き込んだ。


「どうした?」


「ええと、ちょっと待って。あの手鏡、わたしの記憶してる限り、ずっとわたし、持ってた……」


「そうだね。嬉しかった。だから、俺もきみの家族も、きみの成長を見守ってこれたんだ」


「ああ、うん、だけど、そういう問題じゃなくて……」


違う。

違うのよ、吉田くん。


あの鏡、わたしの部屋にずっとあった。

あれを通じて、ずっとわたしを見ていたってことは……!


「さあ、空間の歪みに入ります。揺れますから、掴まっていてください」


シェニムさんの、至極冷静な声が聞こえる。


でも、それどころじゃない!!


わたしが、ガックンガックン揺れる竜の背中で、わたしを庇うように抱き寄せる吉田くんを見上げて。


そして震える声で叫んだ。


「わたしの、着替えも見てたのねーーー!?」


見られた。


だって、自分の部屋だもん。

裸でうろうろしたこともある。


それに……うわぁ。あんなことや、こんなことまで!!


駄目だ。

もう、わたし……立ち直れない。


不思議そうに、私を見ている吉田くんの視線も意味不明!


空間の歪みに吸い込まれながら、わたしはぎゅっと吉田くんに抱きしめられながら、一人心の中で悶絶していた。


パニックになり、……わたしって、混乱してしまうと、真っ白になってしまう性格だったらしい。

最近気付いた。


次に我に返った時には、わたしは広大な大地……緑が一面に広がり、天は雲ひとつ無い眩しいほどの青空。


そして、向こう側には大きな穏やかな川が流れ、その斜め上には、白亜の大きなお城が建っていた。

どこかで見たことがあるような、無いような。


「さあ、着いた。彩花、ここがアステリアだよ」


吉田くんが、わたしの腰を抱いたまま微笑んだ。


わたしは、やっぱり馬鹿面のままだっただろう。

目と口をぽかんと開けて、吉田くんとお城を交互に見やった。


「あの、あの……お城、浮いてる……」


そう。


大きなお城は、そこに根を張っているかのような存在感を醸し出しながらも、数十メートル空中に浮いていた。


最後に、黒い竜から降りてきたシェニムさんが、指をぱちんと鳴らすと、その竜が姿を消し去ってしまった。



……どういうカラクリなんだろう……。


そしてわたし達の方へ歩み寄りながら、腰に手を当てて城を見上げた。


「レーリアを連れて帰ると連絡をしておきましたから、準備は整っているはずです。もし不完全ならば、私が責任をもって総司令官を罰しましょう」


ふふ、と笑うシェニムさん。

綺麗な顔に浮かべた笑みが、怖いんですけど……。


「城まで歩くのも面倒です。一気に飛びますか」


そう言うや、シェニムさんが足で土がむき出しになっている地面に円を描き、そしてその内側に、器用に複雑な文様をさらさらと描いていく。


あ、魔法陣だ。


由利ちゃんが、空中で描いたときには、よくその形が分からなかったけど。


でも、シェニムさんが書いたのは、……やっぱりよく分からない。


もちろん日本語じゃない。英語でもドイツ語でもフランス語でもない気がする。


どっちかっていうと、象形文字に近いのかなあ?


「レーリア、ラナディート、こちらへおいでなさい」


シェニムさんに呼ばれ、途中でポワンを抱いたわたしとラディこと吉田くんが、その円に入る。


確認したシェニムさんが、長い足を持ち上げ、軽く振り下ろすと。


空間が……また空間が歪むー!!


次の瞬間、わたし達は、大きな城壁の前にいた。


そしてわたしの足元に、さっきシェニムさんが地面に書いたのと同じような文様が描いてある。


ワープだ……ワープしたんだ……。


ああ、せっかく「ネバーエンディングストーリー」の曲が、頭から抜けてくれたのに。


今度は、違う曲が頭の中を駆け回る。


――チャッチャッチャ、チャチャッ、チャ!


誰もが知っている、あの配管工の兄弟が土管に吸い込まれてワープする時の、あまりに有名なBGM。


稀代の名作、スーパーマリオブラザーズの世界に迷い込んだ気分だった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ