第4話 失敗の理由を、誰も口にしなかった
第四話です。
元いたギルドは、朝から騒がしかった。
依頼失敗の報告書が、机の上に積まれている。
血の染みが残ったままの書類もあった。
「……おかしいだろ」
ギルド長が、低い声で言った。
「この依頼、難易度は低かったはずだ」
副長が腕を組み、苛立ったように答える。
「魔物の数が想定より多かったんだ」
「運が悪かっただけだろ」
「運、か……」
ギルド長は、それ以上何も言わなかった。
誰も「準備不足」という言葉を使わない。
誰も「撤退が遅れた」とは言わない。
責任の所在が、宙に浮いたままだった。
若い冒険者が、恐る恐る口を開く。
「……前は、もう少し慎重じゃありませんでしたっけ」
「補給とか、ルートとか……」
空気が、ぴたりと止まった。
副長が睨み返す。
「今さら何だ?」
「終わったことだろ」
若い冒険者は、それ以上何も言えなかった。
その場にいた誰もが、
“あの名前”を思い浮かべていた。
だが、誰も口にしない。
(言ったら、
自分が次に切られる)
そう分かっていたからだ。
次の依頼も、同じように進められた。
細かい確認は省略され、
「行けば何とかなる」という判断が通る。
結果は、また失敗。
怪我人が出て、
依頼主との関係も悪化した。
「最近、このギルド、危ないらしいぞ」
噂は、街の中を静かに広がっていく。
依頼は減り、
報酬も下がる。
その頃。
俺は、新しいギルドで、次の依頼書を読んでいた。
「この条件、少しきついですね」
そう言うと、
ギルド長は苦笑して頷いた。
「ですよね。最初から無理をする必要はない」
修正案を出し、
依頼主と話を詰める。
時間はかかったが、
条件は改善された。
「助かりました」
依頼主は、はっきりとそう言った。
「前のギルドでは、
ここまで話を聞いてもらえなかったので」
その言葉に、
胸の奥が少しだけ痛んだ。
(……あそこも、
最初からこうだったわけじゃない)
夜。
酒場で、また元ギルドの話を聞いた。
「この前、護衛で撤退したらしい」
「判断が遅れたって」
「前は、もっと堅実だったよな」
誰かが、ぽつりと続ける。
「……空気、悪くなったんじゃないか?」
俺は、グラスを持つ手を止めた。
(空気が悪くなる)
聞き慣れた言葉だった。
でも、今はもう、
それが俺の問題じゃない。
元ギルドの崩れ方は、派手じゃなかった。
誰かが大失敗をするわけでもない。
誰かが責任を取るわけでもない。
ただ、
小さな判断ミスが、
誰にも止められずに積み重なっていく。
それだけだ。
帰り道、夜風が冷たい。
それでも、俺は思った。
(俺は、
あそこで“空気を悪くする役”を
ちゃんとやっていたんだな)
そう気づいたとき、
ようやく、少しだけ自分を許せた。
そして、もう一度、はっきりと思う。
(戻る必要は、ない)
明日も、ここには判断がある。
意見を求められる場所がある。
それでいい。
誤字脱字はお許しください。




