第3話 評価される場所は、声の大きさじゃなくて結果を見る
第三話です。
依頼の成功から、二日が経った。
小さなギルドは、相変わらず小さかった。
建物も、設備も、急に良くなったわけじゃない。
でも、空気だけは確実に変わっていた。
「次の依頼、これなんですけど……」
誰かが遠慮がちに書類を差し出してくる。
前だったら、
「アレンさん、どう思います?」
なんて、気軽に聞けなかっただろう。
今は違う。
俺は書類を受け取り、黙って目を通す。
内容は護衛。
報酬は安いが、失敗すると信用を落とすタイプだ。
「……この条件だと、割に合いません」
言った瞬間、少しだけ間が空いた。
(あ、また言い過ぎたか)
そう思ったが、次に返ってきたのは否定じゃなかった。
「やっぱり、そうですよね」
「どこを詰めればいいですか?」
誰も、俺を“止め役”扱いしない。
ちゃんと、判断材料として見ている。
胸の奥に、じんわりとした感覚が広がった。
(……これでいいんだ)
条件を調整し、
護衛ルートを変更し、
危険度を依頼主に正直に伝える。
結果、報酬は上がり、
責任範囲も明確になった。
依頼主は、満足そうに頷いた。
「話が早いですね」
「こういう相談ができる人を、探していました」
その一言が、妙に胸に残った。
――探していた。
必要とされている、という感覚は、
こんなにも静かに、効くものなんだな。
その日の夕方。
ギルド長に呼び止められた。
「アレンさん、少し時間、いいですか」
簡素な応接室。
木の椅子が二つと、古い机だけ。
彼は少し姿勢を正してから、言った。
「正式に、うちに来てもらえませんか」
予想していなかったわけじゃない。
それでも、心臓が一拍だけ強く鳴った。
「今すぐ答えなくても構いません」
「給料も、立場も、相談しながら決めたい」
条件は悪くなかった。
むしろ、かなり良い。
でも、即答はできなかった。
頭に浮かんだのは、
元いたギルドの光景だった。
空気を乱すな。
目立つな。
黙って支えろ。
「……少し、考えさせてください」
ギルド長は、すぐに頷いた。
「もちろんです」
「急かすつもりはありません」
その態度が、ありがたかった。
夜。
街の酒場で、偶然、耳に入った話があった。
「最近、あのギルド、依頼失敗したらしいぞ」
「前はもっと安定してたのにな」
……元いたギルドの話だ。
「誰か抜けたんじゃないか?」
「地味な奴がいた気がする」
名前は出ない。
でも、なぜか胸がざわついた。
(俺がいなくなっただけで、
全部が崩れるわけじゃない)
そう思おうとした。
でも同時に、
「俺が、支えていた部分は確かにあった」
とも、思ってしまった。
それに気づいた瞬間、
不思議と、罪悪感は湧かなかった。
(……もう、戻らなくていいな)
評価されない場所に、
自分から戻る理由はない。
帰り道、夜風が少し冷たかった。
それでも、足取りは軽かった。
明日、また依頼がある。
判断すべきことがある。
意見を求められる場所がある。
それだけで、十分だった。
異動先で評価が随分違うなんてこともある職場、ありそうですよね。




