第2話 空気を読まなかった結果、依頼は成功した
第二話です。
小さなギルドの会議室は、正直言って心許なかった。
机は古く、椅子も揃っていない。
壁には地図が貼ってあるが、端が丸まっている。
――元いたギルドとは、比べものにならない。
(俺、なんでここにいるんだろうな)
そんなことを考えながら、依頼書に目を落とす。
内容は、街道近くに出没する魔物の討伐。
ランクは低めだが、油断すると被害が出るタイプだ。
俺は、しばらく黙って書類を読んだ。
誰も急かさない。
誰も「早く意見を言え」とも言わない。
その沈黙が、少しだけありがたかった。
「……正直に言っていいですか」
顔を上げると、全員がこちらを見る。
その視線に、前のギルドで感じていた
「また面倒なことを言うのか」という圧はなかった。
「はい。お願いします」
ギルド長が、まっすぐに頷く。
俺は、少し息を吸ってから言った。
「この配置だと、帰りが危険です」
「討伐後に体力が落ちた状態で、
このルートを通るのは、事故が起きやすい」
若い剣士が、首を傾げた。
「でも、今までずっとこの道で――」
「だから、です」
言葉を遮ってしまったことに気づき、
一瞬、言い過ぎたかと思う。
だが、続けた。
「問題が起きていないのは、運が良かっただけです」
「一度失敗すれば、取り返しがつかない」
空気が、少し張り詰めた。
(……やっぱり、嫌われるか)
そう思った瞬間だった。
「じゃあ、どう変えますか?」
ギルド長が、地図を俺の方へ寄せてきた。
責める声じゃない。
判断を任せる声だった。
胸の奥が、わずかに揺れた。
「討伐地点を少しずらします」
「帰りは、遠回りでも安全なルートを」
「補給を一つ増やして、万一に備えましょう」
一つ一つ説明する。
誰も笑わない。
誰も茶化さない。
全員が、真剣に聞いている。
(……ああ)
ここでは、
空気を読まなくていいんだ。
準備は、丁寧に進んだ。
無駄口は少ない。
でも、雰囲気は悪くない。
討伐は、あっけなく終わった。
魔物は想定通りの動きしかしなかったし、
退路も確保されていた。
怪我人は出なかった。
装備の損耗も最小限。
帰り道、誰かがぽつりと言った。
「……楽でしたね」
その言葉に、誰も否定しなかった。
ギルドに戻ると、
依頼主との報酬交渉が残っていた。
俺は一歩下がろうとしたが、
ギルド長に呼び止められる。
「アレンさん。ここも、お願いします」
少し迷ってから、頷いた。
条件を整理し、
失敗リスクが下がったことを伝える。
結果、報酬は当初より上がった。
「こんなに、ちゃんと話を聞いてもらえたのは初めてだ」
依頼主の言葉に、
胸の奥が、じんわりと温かくなる。
夜。
ギルドの簡素な食堂で、軽い打ち上げが開かれた。
豪華じゃない。
酒も安い。
それでも、誰かが言った。
「……アレンさんが来てくれて、助かりました」
別の誰かが、慌てて付け足す。
「いや、その……来てくれた、じゃなくて」
「力を貸してくれて、です」
言葉を選んでいるのが、分かった。
俺は、思わず笑ってしまった。
「どっちでも、大丈夫です」
その瞬間、場の空気が、少し柔らいだ。
(ああ……)
ここでは、
俺は「邪魔」じゃない。
それだけで、十分だった。
その頃。
元いたギルドでは、
同じ日に受けた依頼が、失敗していた。
補給不足。
無理な突撃。
撤退判断の遅れ。
「……なんで、こんなことに」
誰かが呟いたが、
答えは出なかった。
俺がいなくなった理由を、
まだ誰も考えていなかったからだ。
こんな職場ありません?




