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『追放された理由が、真面目で「空気が悪くなるから」だった件』  作者: くろめがね


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第1話 追放された理由が「空気が悪くなるから」

第1話です。

「アレン。悪いが、今日でうちを抜けてくれ」


ギルド長は、そう言ってから、ようやく俺を見た。

ほんの一瞬だけ目が合って、すぐに逸らされた。


その一瞬で、だいたい察しはついた。

話し合いじゃない。

もう決まっている。


「……理由を、聞いてもいいですか」


自分でも、声が思ったより低いことに驚いた。

怒ってはいない。

ただ、状況を理解しようとしているだけだ。


ギルド長は、机の端を指で叩いた。

困ったときの癖だ。


「その……だな」


言い淀む彼の代わりに、副長が口を挟んだ。


「お前がいると、空気が悪くなるんだよ」


一瞬、何を言われたのか分からなかった。


「空気……ですか?」


聞き返すと、副長は軽く笑った。


「真面目すぎるんだよ。

 場がピリッとするっていうかさ」


周囲を見回す。


誰もこちらを見ていない。

誰も否定しない。


(ああ……そういうことか)


納得してしまった自分が、少しだけ情けなかった。


俺は、このギルドで五年働いてきた。

前に出て指示を出すのは苦手だった。

でも、作戦を考えるのは嫌いじゃなかった。


依頼書を読み込んで、

「これは危ないな」と思ったら、条件を詰め直す。

無理そうなら、遠回しに止める。


失敗しないために、

空気を読まずに口を出すこともあった。


……たぶん、それが「重い」んだろう。


「戦闘でも目立たないしな」

「新人も増えてきたし」


誰かのそんな言葉が、遠くで聞こえた。


言い返そうと思えば、言えた。

実績なら、山ほどある。


でも、そのどれもが

「今さら言うことじゃない」

気がしてしまった。


「分かりました」


そう言った瞬間、

胸の奥が少しだけ軽くなった。


引き止められなかったことに、

正直、ほっとしている自分がいた。


荷物をまとめて、扉に手をかける。


背後で、小さな声がした。


「……これで、雰囲気も良くなるな」


その言葉を聞いたとき、

怒りよりも先に、寂しさが来た。


(ああ、俺は

 ちゃんと嫌われてたんだな)


外に出ると、街はいつも通りだった。

人は忙しそうに歩き、露店の呼び声が聞こえる。


世界は、何も変わっていない。


変わったのは、

俺が「ここに居ていい人間」じゃなくなったことだけだ。


(……頑張りすぎたのかもしれないな)


そう思ったら、

少しだけ笑えてしまった。


その日の午後。

街外れの、小さなギルドで声をかけられた。


「すみません。

 依頼のことで、少し相談に乗ってもらえませんか?」


人数は少なく、装備も揃っていない。

でも、全員の顔が切実だった。


依頼書を見る。


……正直、危なかった。

このまま行けば、失敗する。


一瞬、迷った。


(もう、余計なことはしなくていいんじゃないか)


でも、口は勝手に動いていた。


「この配置だと、戻りが厳しいです」

「補給が足りません」

「報酬条件、もう少し詰めた方がいい」


言い終わると、場が静まり返った。


しまった、と思った。

また、空気を悪くしたかもしれない。


だが、次に返ってきたのは、違う言葉だった。


「……どうすれば、いいですか?」


真剣な目だった。


その瞬間、胸の奥が、少しだけ温かくなった。


「あ、いえ……」

「やり方を変えれば、いけます」


作戦を組み直し、

役割を整理し、

条件を調整する。


特別なことじゃない。

今まで、当たり前にやってきたことだ。


「お願いします。今回だけでいい。力を貸してください」


俺は少しだけ考えてから、頷いた。


(ここでは、

 空気を悪くしてもいいのかもしれない)


その選択が、

元いたギルドが静かに崩れ始める最初の一歩になることを、

この時の俺は、まだ知らなかった。


誤字脱字はお許しください。

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