公開処刑(ウェディング)
会場は街の教会でも、龍の神殿でもなかった。アキが一夜にして山頂の工房の前に作り上げた、白磁と金剛石の特設祭壇だ。
招かれたのは、震え上がる街の有力者たちと、面白がって空を埋め尽くす龍の親族たち。
だが、主役であるシキの姿は、祭壇に登るまで誰にも見えなかった。アキが「私の許可なくシキを直視するな」と、不可視の結界で覆い隠していたからだ。
「……シキ。怖いか?」
祭壇の裏、アキはシキの婚礼衣装を整えながら、その震える指先を自分の口元に寄せた。
シキが着せられているのは、布というより「魔力の防護壁」を織り込んだ重厚な白銀の衣。アキの鱗を加工して作られた、世界で最も硬く、最も美しい拘束具だ。
「……怖くないよ。ただ、みんなが見てると思うと、ちょっと緊張するだけ」
「……お前を見る奴らは、私が全員、石像に変えてもいいんだよ?」
「だめだよ。今日は、お祝いの日なんだから」
シキが苦笑してアキの頬に触れると、アキは満足げに目を細め、シキの薬指に「あの指輪」を嵌めた。
【公開処刑(という名の誓い)】
二人が祭壇に姿を現した瞬間、龍たちの咆哮と、人間たちの悲鳴に近い歓声が響き渡った。
アキはシキの手を引くのではない。シキの腰を抱き寄せ、自分の体の一部であるかのように密着させて歩く。
「……静かにしろ」
アキが短く、冷徹な声を放つ。それだけで、空を覆う数百の龍たちが一斉に沈黙し、地上に平伏した。
「今日、この時から。この男、シキは私の一部となった。……こいつに触れることは、私の心臓を素手で掴むことと同じだと思え」
アキは神父も介さず、参列者たちに向かって言い放つ。それは誓いの言葉ではなく、宣戦布告だった。
「こいつが望むなら、私は世界を焼き払う。こいつが傷つくなら、私は歴史を止める。……シキを損なう全ての事象は、私の敵だ」
アキはそこで言葉を切ると、シキの方を向き、その瞳に宿る狂気的なまでの愛を露わにした。
「……シキ。お前はもう、自由じゃない。私の腕の中でしか息ができない、私のものだ。……後悔してないか?」
数千の視線がシキに注がれる。普通の人間なら、その重圧だけで発狂しかねない光景だ。
だがシキは、アキの腕の強すぎる力加減に、かつてない安らぎを感じていた。
「……後悔なんて、するわけないよ。……アキ。僕を、一生飼い殺してね」
シキがアキの首に手を回し、自ら唇を重ねる。
その瞬間、アキの背後から巨大な魔力の翼が展開され、山頂を黄金の光が包み込んだ。
【読者の代弁者・バルガスの独り言】
空中からそれを見ていたバルガスは、深いため息をついて隣の龍に話しかけた。
「……見ろよ、あの坊主。自分から首輪を締め直してやがる。……アキもアキだ。あんな幸せそうに獲物を喰ってる顔、千年生きてて初めて見たぜ」
「……あいつら、もう二人だけで別の宇宙に住んでるな」
そろそろハッピーエンドですよ……?




