退化という名の寵愛
旅から戻った山頂の工房は、以前よりも少しだけ「密度」が増していた。
アキが旅先でシキが興味を示したものを、文字通り根こそぎ――珍しい高山植物から、果ては気に入った景色の岩まで――魔術で転送して配置したせいだ。
「……アキ、流石にこの岩は大きすぎないかな」
「いいの。シキが『座り心地が良さそう』って言ったんだから。……ほら、座って。私がクッションを魔法で固定したから」
シキは苦笑しながら、工房の中央に鎮座する巨岩(に、最高級の布を敷き詰めたもの)に腰を下ろす。
すると、アキは当然のようにシキの背後に回り込み、彼の髪を梳き始めた。もはやそれは日課を通り越し、アキにとっての「儀式」だ。
「……シキ。もう、一人で髪を洗うのも禁止ね」
「えっ、どうして? 流石にそれは自分でも……」
「ダメ。昨日、お前が自分で洗った後、少しだけ毛先が絡まってた。……私の管理不足。お前の髪一本、指先一つ、私が一番最適な状態を知っているんだから、私に任せればいい」
アキの言葉に、シキは「じゃあ、お願いしようかな」とあっさり受け入れる。
読者が「自立心を捨てろシキ!」と叫びたくなる瞬間だが、シキにとっては、アキに全身を委ねている時間が、この世で最も「自分が大切にされている」と実感できる時間なのだ。
そこへ、再び「ジジババ」の一人、バルガスが窓の外に巨大な龍の姿で現れた。
「おいアキ! 近くを通ったから寄ってみれば……なんだその岩は。庭園でも作る気か?」
「バルガス、うるさい。シキが昼寝するのを邪魔しないで」
アキは窓も見ずに、指先一つで工房の防音結界を三重に強化した。バルガスの声は完全に遮断され、彼は外で「あー、もうダメだこりゃ」と翼を振って去っていく。
「アキ、バルガスさん、何か言いたそうだったけど……」
「いいの。あんな不純物の言葉を聞く必要はない。……お前の世界には、私の声と、お前が好きな本の音だけあればいい」
アキはシキの耳元で囁き、そのまま彼の首筋にそっと唇を寄せた。
『血の契約』を交わした場所に触れるたび、アキの瞳には黄金の炎が灯る。
「……シキ。お前、最近また少し柔らかくなった? ……いいよ。私が守ってあげるから、筋肉なんていらない。……歩けなくなっても、私がずっと抱いていてあげるから」
アキの言葉は、もはや純粋な呪いだ。
シキを「自分なしでは呼吸の仕方も忘れるほど」に甘やかし、退化させ、純化させる。
シキはアキの腕の中で、とろけるような幸福感に包まれながら、彼女の独占欲を全身で受け止める。
「……うん。アキがいてくれれば、僕はそれでいいよ」
外の世界では龍たちが「あそこの人間はもう手遅れだ」と噂し、読者が「これはハッピーエンドなのか……?」と戸惑う中で。
山頂の工房だけは、世界で一番甘くて、世界で一番重い、二人だけの完結した天国が続いていく。
はい、受験生として本当によくない日々の過ごし方してます。一番ダメな受験生として教科書載れるレベルです…




