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契り  作者: 月蝕刻
season1
7/13

琥珀色の世界で一生、私の見せるものだけを見ていて

「……はい、着いたよ。シキ、目を開けて」

アキの声に促され、馬車の重厚な扉が開く。

そこは、大陸の最果て。雲よりも高い断崖の上に突き出した、天空の湖畔だった。

クリスタルのように透き通った水面が、沈みゆく夕日を反射して、世界が琥珀色の宝石の中に沈んだかのような錯覚を抱かせる。

「わあ……すごい。本当に、本の中にあったみたいだ……」

シキが感嘆の声を漏らし、馬車のステップを降りようとする。

だが、その足が地面に触れるより先に、アキの手がシキの腰を抱き寄せ、そのまま軽々と抱き上げた。

「アキ、もう大丈夫だよ。地面、平らだし」

「ダメ。ここの石は少し滑りやすい。……お前が転んで、その綺麗な景色を見る時間が台無しになるのは許さない」

結局、絶景の湖畔でもアキはシキを地面に下ろさなかった。

アキは岩場に腰を下ろすと、自分の膝の上にシキを座らせ、後ろから抱きしめる形で一緒に夕日を眺める。

「……シキ。旅、楽しかった?」

アキの問いかけは、どこかぶっきらぼうで、けれど確かな不安が混じっていた。

彼女にとって「旅」とは、不確定要素の塊であり、管理しきれないリスクの連続だった。シキを喜ばせるために全力を尽くしたが、同時に「自分の管理(檻)がシキにとって退屈ではないか」という、龍らしからぬ疑念が脳裏を掠めたのだ。

「うん、すごく楽しかった。アキがいてくれたから、僕はどこを見ても怖くなかったし……。こんなに綺麗なもの、一人じゃ絶対に見に来られなかったよ」

シキがアキの腕に手を重ね、優しく微笑む。

その言葉を聞いた瞬間、アキの心臓が、自分でも驚くほど大きく跳ねた。

彼女にとってのシキは、守るべき「所有物」であり、磨き上げるべき「最高傑作」だったはずだ。だが、今のこの胸の痛みにも似た熱は、精密機械のメンテナンスでは決して得られないものだった。

「……そう。なら、いい」

アキはシキの項に顔を埋め、深く息を吸い込む。

シキの匂い。シキの体温。シキの言葉。

それらすべてが、アキという孤独な龍の定義を、少しずつ、けれど決定的に書き換えていく。

「……シキ。お前が望むなら、またどこへでも連れて行ってあげる。……世界中の景色を、全部お前のものにしてあげる。……だから」

アキの腕に、ぎゅっと力がこもる。

「……一生、私のそばで、私の見せるものだけを見ていて。……いい?」

それは、甘い約束のようでいて、逃げ場のない呪いのようでもあった。

シキは、アキの胸の鼓動がいつもより少し早いことに気づき、自分もまた、彼女の腕の中で深く、深く頷いた。

「うん。約束するよ、アキ」

琥珀色の世界の中で、二人の影が一つに溶け合う。

読者が「お前ら、それもう完全に結婚してるだろ!」と突っ込む隙すら与えない、圧倒的な共依存の完成だった。

メタいですね。この頃からもう少しで受験という現実から目を背けはじめました

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