朝焼けを拒む腕の中で
「……どこ行くの」
低い、けれど甘く掠れた声がシキの耳元で響いた。
翌朝。カーテンの隙間から差し込む朝日が、馬車の中を白く染めている。シキは一晩中、隣にいるアキの体温と、自分の制御不能な心臓の音に翻弄され、結局まともに眠れたのは空が白み始めてからだった。
少し重い頭を振って、こっそりベッドから抜け出そうとした、その時だ。
「っ……!」
腰に、ひやりとした、けれど強固な感触が巻き付く。
アキの尻尾だ。
人化していても、彼女の意思一つで現れるその「龍の体の一部」は、シキの胴体を優しく、けれど絶対に逃がさないという確信を持って拘束した。
「アキ……起きてたの?」
「……お前が心臓をバクバクさせて、ちっとも寝ないから。……気になって、私も浅い眠りしかできなかった」
アキは目を閉じたまま、尻尾の力を強めてシキを自分の胸元へと引き戻す。
シキの背中がアキの柔らかな体にぴたりと密着し、逃げ場がなくなる。
「あ、あの……ごめん。その、狭いかなって思って」
「狭くない。……お前が私のそばから離れる方が、私にとっては不都合」
アキはゆっくりと目を開けると、寝起き特有の潤んだ黄金の瞳でシキをじっと見つめた。
そして、自由な方の手でシキの頬をなぞり、目の下の僅かな隈を指先で確認する。
「……寝不足。顔色が悪い。……今日は予定を変更して、ここで昼まで寝る。私の腕の中で、強制的に」
「ええっ、でも、せっかくの旅だし、景色が……」
「景色なんて、お前の健康より優先される価値はない。……ほら、目をつぶって。私の心拍に合わせて呼吸して」
アキはシキの頭を自分の肩に埋めさせ、大きな猫のように喉を鳴らす。
シキにとっては、心臓が爆発しそうなほどの「恋愛的なドキドキ」だが、アキにとっては「大切なパーツの不調(寝不足)を正すためのメンテナンス」という名目の、極上の独占タイムだ。
(……これじゃ、余計に眠れないよ……)
シキは内心で悲鳴を上げるが、アキの尻尾は満足げにシキの脚にまで絡みつき、文字通り「一蓮托生」の形を作っている。
読者がこの光景を見れば、「ラブラブすぎて当てられっぱなしだ」と思う反面、アキの尻尾がシキを完全に『捕獲』しているその絵面に、やはり「逃げ場のない愛」の重さを再確認することになるだろう。
「……おやすみ、シキ。……いい夢見なかったら、承知しないから」
アキの独占欲に満ちた子守唄を聞きながら、シキは再び、甘くて重い眠りの中へと引きずり込まれていった。
pixivで先行公開してます。個別投稿をめんどくさがってるだけですが………




