重すぎる愛の処方箋
アキが魔力で動かしている「全自動特製馬車」が、静かに止まった。
街道沿い、景色のいい峠の茶屋。そこに、一人の老人が腰掛けていた。
……もっとも、その背後に漂う、空間を歪めるほどの圧倒的な魔力の持ち主を「老人」と呼べるならの話だが。
「……おーおー、来たな。噂の『過保護の極致』が」
茶を啜りながら声をかけてきたのは、アキの遠い親類にあたる古龍、バルガスだった。
「バルガス。……邪魔。どいて」
「冷てぇな。お前の願い通り、この先の街道にいたワイバーンの群れを全部追い払ってやったのは誰だと思ってる」
バルガスは呆れたように笑い、アキの隣で「初めまして」と丁寧に頭を下げるシキをジロジロと眺めた。
「……おいアキ。お前、本当にそれでいいのか? そのガキ、もう地面を歩く方法も忘れてるんじゃないか?」
「余計なお世話。シキの足が疲れるくらいなら、私が一生運ぶ」
「そういう意味じゃねえよ! ……見ろよ、その馬車の内装。なんだ、あの羽毛の量は。雲の上で生活させる気か? 龍の誇りはどこへやった」
バルガスのツッコミは、まさに読者の代弁だった。
だがアキは、シキの髪を「風で乱れた」という理由で執拗に整えながら、鼻で笑う。
「誇りでシキのお腹は膨らまない。……シキ、お菓子食べる? さっきバルガスが追い払ったワイバーンの巣の近くにあった、希少な果実のタルト」
「あ、ありがとうアキ。……バルガスさん、アキがいつもご迷惑をおかけしてすみません」
「いや、坊主。お前が謝ることじゃないんだが……。お前も、お前だ。こんな奴に全部お膳立てされて、怖くないのか?」
バルガスが真剣な顔でシキに問いかける。
「こいつ、お前が『旅をしたい』って言った瞬間、大陸中の龍に連絡して『シキの視界にゴミ一つ入れるな、入れたら殺す』って脅して回ったんだぞ。これはもはや旅じゃねえ、動く温室だ」
シキは一瞬きょとんとして、それからアキの方を向いて、嬉しそうに微笑んだ。
「……アキが僕のために、そんなに頑張ってくれたんだ。……嬉しいな」
「…………」
バルガスは持っていた茶碗を落としそうになった。
「あ、だめだ。こいつら、もう手遅れだわ」
アキは満足げにシキを抱き寄せ、バルガスをゴミを見るような目で見据える。
「……聞いた? シキは嬉しいって。……ほらバルガス、用が済んだなら消えて。これからシキと、沈む夕日を特等席で見る予定があるんだから。邪魔者は、風景の一部にも入れさせない」
「はいはい、ご馳走様。……おい坊主、いつかその重すぎる愛で窒息しそうになったら、いつでも空から飛び降りろよ。……まぁ、降りる前に捕まるだろうがな」
背後でバルガスが盛大に溜息をつく声を無視して、アキはシキを連れて再び馬車へと戻る。
読者が「おいシキ、そこは引くところだぞ!」と叫びたくなるようなアキの狂行も、シキにとっては「自分を大切にしてくれる証」でしかない。
突然すみません。この小説のおおよそのストーリーが固まったので何かリクエストありましたらメッセージいただけるともしかしたら書くかもしれません。Xでもpixivでも大丈夫です




