心臓の帰属
山頂の工房に、柔らかな朝日が差し込む。
アキがシキのために整えた遮光結界によって、その光はシキの眠りを妨げないよう、穏やかにコントロールされていた。
「……ん、……アキ……」
寝台の上でシキが身じろぎすると、腰に回されたアキの腕と、足元に絡みつく彼女の尾が、優しく、けれど確実にその自由を奪った。
「……おはよう、シキ。あと三時間は寝ていていいと言ったはずだよ」
アキの声は、耳元で心地よく響く。
彼女はシキを背後から包み込むように抱きしめ、その首筋に深く顔を埋めていた。シキの鼓動、体温、そのすべてを自分のセンサーでスキャンし、異常がないかを確認しているのだ。
「……もう目が覚めちゃった。アキが、ずっと僕の背中をトントンしてるから」
「……お前のリズムが、一番安心する。……いいかい、シキ。お前の健康も、心の平穏も、すべて私の管理下にある。お前はただ、私に守られていればいいんだ」
アキの手がシキの髪を優しく、けれど執拗に撫でる。
その指先には、一瞬の隙も与えずシキを愛で続けたいという、龍特有の重い執着が宿っていた。
「……ねえアキ。僕、アキにこうして抱きしめられてると、本当にアキなしじゃ何もできなくなっちゃいそうだよ」
「……それでいい。私なしでは一歩も歩けず、私なしでは眠ることもできない。……そんな風に、お前の日常を私だけで満たしてあげるのが、私の役目なんだから」
アキの黄金の瞳が、満足げに細められる。
彼女はシキを自分の腕の中に完全に収め、その存在すべてを包み込んだ。
「シキ。お前は、誰に守られている?」
「……アキに」
「そうだ。お前は、私の腕の中だけで息をしていればいい。……さあ、朝食の準備ができるまで、もう一度目を閉じて。私の腕の中で、私の体温だけを感じていなさい」
シキはアキの腕の心地よい重みに身を任せ、その過保護すぎる愛を全身で受け止めた。
外の世界では「行き過ぎだ」と言われるかもしれない。
けれど、この工房においては、これが二人の絆の形であり、永遠に続く穏やかで重い日常の始まりだった。
原文ではR15~18になりかねなかったので修正しました。原文がいい方はpixivの方を訪れてください。「月蝕刻(旧名カフェ)」というアカウントに同じ小説が投稿してあります。




