報酬は、お前の一生
アキは笛を手に、シキをおんぶしたまま要塞の屋上へと移動した。
夕焼けが、破壊された街並みを赤く染めている。
「アキ、それ、どうするの? また吹かれたら嫌だよね」
「……壊す。でも、ただ壊すだけじゃ芸がない」
アキはシキをようやく地面に下ろした。……が、すぐにその手を恋人繋ぎで固く握りしめ、逃げ場を失くす。
「シキ。お前が言ったんだ。古い契約を終わらせて、新しい旅に出ようって」
「うん。……あんな古い骨の笛で縛られるアキ、見たくないもん。アキを縛っていいのは、僕だけがいいな……なんて」
シキが少し照れ臭そうに、けれど「感覚の麻痺した重い愛」を口にする。
アキはその言葉に、内臓が焼け付くような歓喜を覚えた。
「……あぁ。そうだよ、シキ。お前だけが、私を縛っていい」
アキは龍骨の笛を片手で粉々に握りつぶした。数千年の歴史を持つ契約が、塵となって風に舞う。
そして、彼女は自分の指先を少しだけ噛み切り、溢れた黄金の血をシキの唇に塗った。
「古い契約は終わった。……ここからは、私とお前だけの、龍の法も人間の倫理も通じない契約だ」
アキはシキの耳元で、甘く、重く囁く。
「シキ。お前はもう、私なしでは生きられない。私も、お前なしでは世界を滅ぼしてしまう。……この契約の報酬は、お前の『一生』だ。いいな?」
「……うん。喜んで。僕の全部、アキにあげるよ」
シキがアキの首にしがみつき、二人は壊れた要塞の屋上で、世界で一番深いキスを交わした。
古い笛の音はもう聞こえない。
これからは、アキが刻むシキの心音だけが、彼女の世界のすべてになる。
アキは再びシキをおんぶすると、満足げに微笑んだ。
「……さて。帰ろうか、シキ。……工房のベッドで、この『新しい契約』の続きを、じっくり教え込んであげるから」
「あはは、アキ、またお仕置きするつもりでしょう?」
「……当たり前だ。私の時間を邪魔したバカのせいで、お前の管理が数日分滞ったんだから。……覚悟しなよ」
超音速の風の中、二人の笑い声だけが、夜の帳に消えていった。
物語が飛んだりしてるのは私の手元にある原文のデータがちょっとしたミスで8割ほど吹き飛ぶ事件があったからですね。許してください。




