背中の温もりと音速の殺意
「町で笛を吹いてアキを呼んだ人探したいな……」
その小さな呟きさえもアキは聞き逃さなかった
「……準備なんて要らない。シキ、お前がいればそれでいい」
アキは工房の道具を片付けることすら面倒そうに吐き捨てると、シキの前に背中を向けた。
「ほら、乗りな。一ミリも離れるなよ。風圧で指一本、髪一筋でも損なうのは許さないから」
「うん、お願い」
シキが慣れた手つきでアキの背中にしがみつく。アキはシキの脚を自分の腕でがっちりと固定し、さらに魔力の粘着層で二人の体を物理的に「一体化」させた。
「行くよ」
直後、爆音。
アキがテラスから蹴り出した瞬間、足元の石畳が粉砕され、二人は音速を超えた。
雲海を突き破り、絶壁を垂直に駆け下りる。常人なら気絶するようなG(重力)と光景だが、アキが展開する完璧な防護結界の中にいるシキは、「アキのいい匂いがするなぁ」と暢気に彼女の首筋に顔を埋めていた。
麓の街まで、本来なら数日かかる道のりをわずか数分。
アキは街の広場に、巨大な隕石が落ちたような衝撃と共に着地した。
「……さて。どこかな、不愉快なノイズの主は」
アキはシキをおんぶしたまま(下ろす気はさらさらない)、黄金の瞳を爛々と輝かせて周囲を威圧する。
突然現れた「少女を背負わせた銀髪の美女(に見える龍)」と、その圧倒的な殺気に、街の人々は悲鳴を上げて逃げ惑う。
「アキ、怖い顔しすぎ。……あ、あそこにいる情報屋っぽい人に聞いてみようよ」
「……チッ。シキがそう言うなら」
アキは逃げ遅れた裏社会の男の襟元を、シキを背負ったまま片手で掴み上げ、地面から数センチ浮かかせた。
「おい、ゴミ。数日前、龍を呼び出す『笛』を吹いた奴がいるはずだ。心当たりを吐け。三秒以内に答えなければ、この街の地図を書き換える」
「ひっ、あ、あのご、龍骨の笛……!? そ、それは……西の『魔導研究特区』の連中が、古い儀式道具を掘り出したって噂が……!」
「西か。……シキ、聞いた? 西だって」
「うん。じゃあ、次は西だね。アキ、飛ばしすぎて酔わないように気をつけてね」
「お前の体調管理は私の最優先事項だ。……しっかり掴まってろ」
アキは男をゴミ箱に放り投げると、再び爆風を巻き起こして西へと疾走した。
私は決して匂いフェチではありません(親友に指摘されたのを気にしている)




