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第六話 自分勝手でマイペース

 目を休めながら少し作戦を詰めて、火炎瓶を大量に作った僕にカガリはうさぎのシチューを食べさせた。今そんな悠長にしてる場合じゃないっていうのに。

 食べないとまた無理矢理突っ込むって言うから仕方なくではあったけど、久しぶりに食べた温かい食事はそりゃもう美味しかったさ。味付けも完璧。悔しいけどカガリは料理上手だった。

 無理やり消化して一鍋全部食べろって言われるかと思ったけどそんなことはなかった。意外にも。だけどさ……


「なにっ……!!悠長に食べ続けてるんだっ!君はっ!!」


 そう、残りはカガリが食べてる。今になって。


 僕はバシバシと床を叩いて抗議した。


 食べるのはそりゃいいさ。いくら必要ないって言っても食べるななんて言ったりしない。

 でも僕が一人で食べ切れる訳なんてないって最初から分かりきったことじゃないか。それなら一緒に食べるなりなんなりすれば時間短縮になったのに……彼は僕が食べ終わるのを待って、その後呑気に食べだした。

 時間がないって言ってるのに!! 優しさなのかもしれないけど今やられちゃただの嫌がらせだ!!

 オマケに……


「まだっ! 食事を、済ませる気がっ! ないなら……!! はあはあ、せめてっ! 僕を放してくれないかなっ!! 」


 カガリは胡座の要領で僕を囲って、首を腕に抱え込んで、呑気に食べ続けてる! なんでこんなにマイペースなんだこの竜人はっ!!自分勝手すぎるだろっ!!こんなにもがいてるのにびくともしないっ! ついでに言わせて貰えば無駄に優雅なのがムカつく!!


「ばあか。大事な嫁を一人で出歩かせてたまるかっての」


 僕が先に行くって言ったらこの有様だ!!


「君が食べろって言ったからちゃんと食べたのにっ!この仕打ちはあんまりじゃないか!! 少しは効率考えろよっ!! 」


 今度はカガリの腕をバシバシ叩いて今一度抗議する。


「急いでもいいことないぜ? 」


「時と場合によるだろっ!! 」


 もうツッコミ疲れた。


 僕は彼に抱え込まれたままだらりと脱力した。


「そうそ、大人しくしてろよ。食った後すぐ動いちゃ体に悪いんだぞ」


「誰のせいだと思ってるんだ。君が放してくれないから食後に大暴れする羽目になったんだろ……」


 嫌になるよほんと。仕方ないからもう少し作戦を詰めることにしよう。そうしよう。時間の有効活用だ……。


「気をつけなきゃいけないのは叔父上だ」


「お前に敵いやしねえだろ」


「いや……力ではもちろん僕が上さ。でも彼は人が行使してる時を()()()できるんだ。範囲は狭いし一瞬だけど」


 無駄に使った体力を回復させるべく脱力したまま説明を続ける。


「例えばだけど。僕が世界を停止させたとして。当然僕以外動ける人は居なくなるだろ? だけど叔父上は自分の時を()()()()()時が止まった世界でも動けるようになるんだ」


「ふぅん?」


「さっきも言ったけど世界でもなんでも時を止めて、解除した直後はインターバルがある。複数の力を行使できても停止だけは連続して行使できない。それで厄介なのが叔父上だ」


 ちら、とカガリを見上げると目が合った。慌てて伏せる。

 ……なんで?


「僕がせっかく止めても彼が上書きしてしまえばインターバルのせいで止められなくなる。インターバルへの干渉は力をすごく消耗するから戦闘中になんて使えないし、世界丸ごとの停止や空間の停止、人物の停止も無駄撃ちできない」


「でも歴代最強のお前が止めた時を無理くり動かせるもんかね」


「あー、うん。これもさっき話したけどさ……叔父上が僕の力に対抗できる理由は()()()()()()にあるんだ」


「ああ、()()の相乗効果で上書きすんのか……」


 カガリの相槌を聞きながら目を閉じた。


 いつでも思い出す……戦場で相見えたあの時。彼の片目は()()()()()()()


 目を開ける。


「『闇』の力を皇帝から受け取ってるからね、叔父上は」


「闇の塊を自分でに埋め込む阿呆の気が知れねえな」


「自分も侵食されることを……微塵も考えてないのさ。皇帝がちょっとその気になったらあっという間に闇に呑まれる……むしろその為に渡されたんだと思う」


 鍵さえ開けば『時の王族』なんて邪魔なばかりだ。また封印されかねないリスクを抱えてまで生かしとく意味がない。あれは……より効率よく世界を呑み込むための《《種》》を植え込んだだけだ。

 叔父上はなんで——


 あ、そうだ。


「ああ、これも昨日もさっきも言ったけどさ、巻き戻しは理に反する事だ。だから結構力を消耗する。ちょっとした傷なら容易く治せる。けど、大きな怪我を治すとなると結構負担が大きいんだ」


「何回くらいイケる?」


「……聞いてたかい?怪我する前提で話を進めないでくれるかな」


「具体的な把握は大事だろ」


「……時封じの儀をすることを考えたら……十回が限度だ」


「ん、分かった」


 彼はシチューを食べながら鷹揚に頷いた。


 って、いうかまだ食べてたのか。長いんだよ食事が。


「力は残しとくに越したことないんだから無駄に怪我しないで欲しいな。そこの所、君が分かってるのか怪しいんだけど」


「ちゃんと分かってるって、ヨイショ」


 カガリが僕を抱え直して立ち上がる。ちょっと待って欲しい。


「ちょっと、なんで食べ終わったのに放してくれないんだ。おかしいだろ」


「鍋洗う」


「はあ!? 時間がないって言っただろ!? なんで君はそこまで悠長なんだ!? 」


「旅道具は大事にしねえと」


 どこまでもマイペースを崩さない彼に抗議せずにはいられない。


「だったら放せって!僕一人で火炎瓶置いてくるからっ!!」


「だーからこんな危険地帯を一人でほっつかせるわけねえだろ」


「ちょっと待て、二人で手分けして設置する筈だろ」


「あ?んなわけあるかこの阿呆。一緒に回るっての」


「何言ってるんだよ! 僕が阿呆なら君は馬鹿なのか!? あの数見なよ、設置するのにどんだけかかるか! ただでさえ君が悠長に食事してたから時間が押してるのに!! 馬鹿なのは叔父上だけでたくさんだ! 」


 彼の背中をバシバシ叩く。彼は僕を小脇に抱えたまま鍋を洗って拭いた。丁寧に丁寧に水気を取って彼の大きなリュックに仕舞う。


 いい加減にして欲しい!放してくれないかなあ!もう!


「一人でも二人でも変わんねえわ。俺の方が足速えんだから」


 僕が訝しんでるとカガリは火炎瓶を集め始めた。僕のリュックに詰め込んでく。


「人の荷物に勝手に危険物を入れるなんていただけないな」


「空いてんだからいいだろ。お前がやらかさなきゃ何も危険じゃねえんだから」


 全ては僕の匙加減ですか、そうですか……今すぐ爆発させたい。しないけど。


 小脇に僕を抱えて反対に二人分のリュックを抱えて、ほぼ垂直の梯子をカガリがひょいひょい登ってく。


 そりゃ身体能力は凄いけどさ。


「竜人の素早さごろうじろってやつだ」


 彼は器用に隠し扉を開け一足飛びに外へ出た。


「いや、要らないんだけっ——


 言葉の続きは風に呑まれた。景色が流れ飛んで王都の西へ、森へ、街中へ……大凡三十個あった火炎瓶はいつの間にか全て無くなった。


 ……あっという間だった。なんで彼があんなに悠長にしてたかよーーーく分かった。僕を一人で行かせる気が無かったのも。


 僕のペースやってたら仕掛けだけで丸一日掛かる大仕事を彼はものの十分で片付けてしまった。それも、時を止めることなく帝国兵の目にも止まらぬ速さで。


 僕はまたボサボサになった髪を撫で付けた。


「素早さ……存分に味わったよ……」


「そりゃよかった」


 カガリはケラケラと笑った。


「じゃあ早速城へ向かおう。せっかくできた時間だ。無駄にできない有効活用しよう」


「一回寝てからでもいいんじゃね?」


「なんでそんなに呑気なんだ! 君はちょっと帝国軍と叔父上を舐めすぎじゃないかい!? 」


 小声で叫ぶ。


「食事は大事だぞ、ゼル。お前は食を蔑ろにしすぎだ」


「状況を(わきま)えてから言って欲しいな」


 カガリは呑気な事をいいながらだけど王城目指してテクテク歩き出した。


 走れよ。さっきのスピードはどうしたんだ。


「結界払うのは側面に人一人通れるくらいがいいと思う。あんまり大穴開けたり近道すると闇を操ってる叔父上に気づかれる。僕が側に居るって警戒されると上書きされかねない」


「王族専用の隠し通路だっけ?」


「うん。城の裏側にあるって言っただろ? 本当は郊外に続く道もあるんだけど、そっちは多分通路まで結界が入り込んでるだろうから使えない。叔父上にバレる。城の中で待ち伏せされてお陀仏だ」


「焼き払ってやるよ」


「闇の力は炎も侵食するよ。防がれて終わりさ」


 そうこう言う内に結界の側までたどり着いた。薄い黒膜のそれは微かに脈打って近づく者の命を奪おうと待ち構えてる。


 この膜を通り抜けられるのは通行証を持った者だけ。それも、当の本人じゃなきゃ意味がない。一度通いの商人から失敬して試してみたけど僕が翳したら闇に侵食されて崩れ去った。


 カガリが僕を下ろす。


「さて、ド派手にいこうか」


 僕は小さく指を弾いてまずは一つ、時を解除した。途端、森の辺りで大爆発が起きる。


 すごい威力だ。ここまで爆風が届いてくる。街中に仕掛けたのを爆発させて果たして無事で済むだろうか。


「何事だ!? 」

「反乱軍か!? 」

「まだこんな威力の武器を隠し持ってたのか! 」

「急げ! 侵入してくる前に防げ! 」


 お生憎様。反乱軍なんて居ないよ。僕とカガリの二人だけだ。


 帝国兵がワラワラ出て来てと駆けてく。僕は郊外、西、と順次徐々に侵攻してるように見せかけて爆破を続けた。


「であえ! であえー! 」

「侵攻を止めろ! 」

「ヤツらは死ぬ気か!? あんなもの爆破して無事な訳ない! 」

「決死の特攻って事か。ならここで叩けばヤツらは終わりだ! 」

「急げ! 包囲しろ!水魔法を使える者をかき集めろ! 」


 人形兵でも魔法まで使えるのか。ますます油断できないな。


 バタバタ駆けてく帝国軍を見送って粗方遠方に行った頃、街中の火炎瓶も爆破した。爆風と炎が飛び散る。幾つかはここまで飛んで来て結界に穴を開けた。


 これなら侵入しても安心だ。オマケに彼らは大混乱大ダメージを食らったはず。戻って来る心配も減るってもんだ。


「世界を止めるよ。鍵の間に着くまで停止させる」


 カガリが頷いたのを確認して僕は世界の時を止めた。耳が痛くなるような静寂に包まれる。でも今は独りきりじゃないのが心強い。


「それじゃあ頼むよ、カガリ」


「おう」


 カガリが炎を吹き結界に穴を開けた、素早く中へ。


 久しぶりに直に見た城は相変わらず荘厳で、真っ白な壁と、目の覚めるような青い屋根は綺麗だ。


 なんて、感傷に浸る間も無く先導して駆ける。(うまや)の側にある井戸に辿り着くと満ちてる水の時を進めて空にした。底に横穴が現れる。


「……君の身長だったらつっかえそうだな」


「阿呆言うなちゃんと通れるわ……這いずって」


 ちょっとプライドの高そうな彼が這い進む姿を想像して僕は笑ってしまった。


「失礼なヤツだなこんにゃろう」


「イタタ、しょうが無いじゃないか。それにいつも失礼な君に言われたくはないな」


 カガリが僕の頭を拳で挟んでグリグリしてきた。


「早く行こう。世界単位の時の停止は力を使うんだ」


「しょうがねえな」


 順番に井戸の底に飛び降りて横穴に入る。僕は四つん這いで楽に進めるけど案の定、彼はつっかえた。


「くそ」


 小さく悪態を吐いて這いずり始める。やっぱりおかしくて笑ってしまった。


「後で覚えとけよ」


 カガリが低い声で脅してくるけどその体勢じゃあんまり怖くないな。


 通路は地上に向けて徐々に斜面に変わり急勾配になっていく。

 床がツルツルしてるから進みづらい。それもそうだ。ほんとは外からじゃなく中から滑り降りて進む道なんだから。

 最後に長い梯子を登って一階と二階の天井裏に出る。大きな通気口の格子から様子を伺って城の中の時も停止してる事をしっかり確かめた。

 よし。

 格子の嵌った枠ごと外して飛び降りる。カガリも続いて降りてきた。廊下の飾りに足を引っ掛けてよじ登って格子を嵌め直す。そして東宮に向かって駆け出した。


 ああ、やっぱり。そう簡単には行かないな。階段の位置がめちゃくちゃだ。叔父上はとんでもない改造をしてくれてたらしい。でも……


「カガリ、あの階段だ」


 階段の柄や模様は変えられない。塔へ進むには特定の紋様が描かれた階段を順番に通らなきゃ辿りつけないようになってる。初代が時の力を込めて作った城だ。崩すなんてそうそうできやしない。


 二人で駆けてるとカガリが突然僕を摘み上げた。小脇に抱える。


「何するんだ」


「この方が速えよ、っと」


 グンッと急加速する。カガリは道順を知っていたらしい。次々と階段を登ってく。


「知ってるなら最初から言っててくれればよかったのに」


「アゼルトの舞には何回も付き合ったからな。飽きるほど柄や模様見てきてんだよ」


 また十七代目。カガリはこれから踊る僕に彼を重ねて見るんだろうか。十七代目の名前が彼の口から出てくる度にほんの少しだけ胸の奥が痛むのはなんでだろ。


「着いた、……ぞ」


 うっかり考え事をしてた僕の意識がカガリの声に引き戻される。彼にしては歯切れが悪い。どうしたのかと振り向いて僕は絶句した。


「見るな! 」


 彼が僕の目を覆ったけどもう遅い。


 見てしまった。見てしまった。塔の入り口は塞がれてた——僕の家族の遺体で。

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