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第十一話 温かい愛

「さて……ゼル、お前こんにゃろめ。無茶しやがって。取り敢えず体巻き戻せや」


「え゛、なんでさ。」


 僕はぎくりとした。

 カガリは薬の事は知らないはず。体に悪いのはもちろんのことだけどあれほど彼が心配していた無茶を通り越すほどのことをしただけに心辺りは山程ある。

 薬の耐性はできれば残しときたいんだけど……。


「治癒が完全に完了するまで体停止させやがって。身動き取れやしねえ。あと一歩遅かったらお前の目はお陀仏だったんだぞ」


「それは……君のダメージが大きかったんだからしょうがないじゃないか。魂にまで侵食が及んでたらどうするつもりだったんだい?世界最強の竜人王族の治癒力なら治せるって……来てくれる、って……信じてたんだよ」


 そう言うとカガリはバツの悪そうな顔をした。


「でもめちゃくちゃクスリ臭いぞお前。なんか変なもん食わされたんだろ」


 そうだったただでさえ身体能力の高い竜人で歴代最強の王族。鼻が利かない訳がない。


「それは……その、食べて、なんかないさ」


 僕がしどろもどろになってると目を眇めたカガリが顔を間近に近づけてきた。


「あん?食ってなかったらなんだよ?注射でもされたか?とにかく身体中からクスリの匂いすんだよ」


「ぅ……」


 す、鋭い。そんなに薬臭いのか、僕。自分じゃ分かんないけど……。


「戻せ戻せ。巻き戻せ。とにかくとっとと戻しやがれ。俺の番がんなクスリ臭くてやってられっか。絶対お前の体に悪りいわ!ついでに怪我する前まで戻しやがれ」


 カガリが喚く。


「な、なんだよ、半分君のわがままじゃないか。それにこっちこそ聞きたいことが山程ある!帝国消すって……うぎゅっ!」


 喚き返そうとすると片手で簡単に頬を潰された。


「反論は聞かねえ。話を逸らすな。今はとにかくお前の身体だ、この阿呆」


「む……巻き戻すの、無駄な力使う……」


 僕は彼の手に手をかけて何とか言い訳を重ねた。


「何が無駄だこの阿呆!お前以上に最優先事項なんてねえんだよっ!!」


 カガリが目を吊り上げて怒ると結構ド迫力。


 平均より……少し、ほんの少し低い僕の身長より四十も五十センチルも背が高いだけある。


「これ以上ごねたら体ん中のクスリに直接火ぃ付けるぞ!!」


「……」


 それは勘弁願いたい。

 僕は渋々目を閉じた。時の力伝いに体の状態を把握する。


 うわ、結構ボロボロだ。戦場は時を操る僕の独壇場みたいなものだし、ここまでダメージを食らったのっていつだろう……そうだ、初陣で叔父上と戦った七歳の時だ。


 叔父上の口調や物腰を継いだことすら忘れてたのは、彼との記憶が昨今の戦いのものばかり残ってたからか……ちょっと悲しいな。


 今になってポロポロ零れ落ちるみたいに思い出が蘇ってくる。


 読み書き計算。力の扱いの鍛え方。剣術が得意でなかった僕に他の武器の基礎も教えてくれた。

 膝の上で本を読んで、飛びついたら抱っこして、暖炉の前で丸くなって寝てしまったら毛布を掛けて一緒に寝落ちてた。彼も温かい所が好きだったから。父上にはしてもらったことのないおんぶや肩車をしてくれたのも叔父上だった。


 僕の最も子供らしい思い出は全部叔父上と一緒にある。次期国王として育てられる僕に家族の誰より甘かった叔父上……


 巻き戻しが完了して目を開けると視界が潤んでてハッとした。慌てて擦ろうとすると、その手を掴まれた……カガリに。

 温かい指で目元をぐいと拭われる。


「あんま擦んな。赤くなるぞ」


 泣くなとは言わないんだね。君は。


 僕は小さく頷いてふざけ半分に彼の上着で顔を拭った。すぐに軽く怒ったカガリの声が降ってくると思ったのに、彼はいつまでも静かだった。それどころかそのまま優しく背中を摩ってきた。

 鼻の奥がツンとする。


 ずるいや。こんなの。顔の上げ時見失うじゃないか。


 カガリの上着がどんどん湿って僕が顔を埋めたまま動けないでいると肩を抱え込まれた。


「おら、後片付けしに行くぞ」


「うん……」


 彼に支えられるみたいにして二人で歩き出した。




————城に残ってた人形兵を一掃するのも、外から帰ってきた高等兵達を片付けるのもあっという間だった。もし、まだ残ってた時用に念には念を置いて城の入り口をカガリの炎で塞いだ。


 延々涙が溢れて仕方ない僕を彼は責めることも急かす事もなく、ただ静かに見守ってくれてて……気がついたら寝落ちてた。


 翌日。


「君ばっかりずるいなあ」


 目が覚めて視線が合って開口一番に口を尖らせた僕にカガリが笑う。


「何がだよ?」


 横抱きにされてた膝から降りる。


「ありがとう。おはようカガリ」


「どーいたしまして、おはようゼル。んで?何がずるいって?」


 僕は伸びをしながらぶーたれた。


「僕は君に寝顔も弱点晒してばっかりだ。君に会ってからどんどん弱くなってるって言っても過言じゃないさ。君は僕の弱みを山程握ってるのに、僕は君の弱点を一つも知らない」


 カガリは目を瞬いて半眼になった。


「弱み握るってお前な……人を悪人みてえに言いやがって」


「僕の貞操を狙ってるくせに」


 じとりと睨むと彼は壁に寄りかかって意外なことを言い出した。


「それはソレ。これはコレ。俺にも弱点の一つや二つくれえあるわこの阿呆」


「弱点?」


 思わず興味が唆られて聞き返すと半眼のまま今度はカガリの方がじとりと睨んできた。


「お前こそ弱み握ろうとしてんじゃねえか」


「君だって人を悪人扱いするなんて酷いじゃないか。僕の場合は気遣い。人の弱点や嫌なことはカバーするために聞くんだ」


 胸を張って堪えると「ふーん」と半信半疑な声が返ってくる。


 まあ、教えてもらえるなんて思っちゃいな——


「じゃあ教えてやるよ」


「えっ?」


 拍子抜けした瞬間にグイと手を引かれて転びそうになる。支えられて、気づけばまた彼の膝の間だった。


 どうしてこうなった。


「俺の苦手なもんは——


 後ろから耳元に囁かれて少しどきりとする。


「雨」


 あまりにも短すぎる答えにガクッとした。身構えて損した気分だ。


「雨……水が苦手なのかい?」


「まあ、竜人族の弱点の一つではあるな。だが俺の雨嫌いは別モンだよ」


 確かに。昨日の朝起きてすぐ雨は好きじゃないって言ってた。というか竜人て水……弱点なんだ。……ほんとに教えてくれるとは思わなかった。


「なんで?」


「それは秘密。神秘、神秘」


 言うだけ言ってもったいぶるなよ。何が神秘だ。君に神秘なんて言葉一つも似合わないって言ったじゃないか。


「ん」


 急に目の前にどデカい何かの饅頭のようなものが突き出された。


「なにさ」


 訝しげに振り返るとカガリも同じものを大口開けて食べてた。僕のお腹がしばらくぶりに小さく鳴った。


「飯食え、飯。昨日の夜からなんも食ってねえだろ。もう昼だぞ」


「えっ、うそ」


 そんなに深く眠ってたなんて。


「なんで起こしてくれなかったんだよ!?」


「んなもん起こす必要がねえからだよ。今急ぐ理由はねえ」


「あ、そっか……」


 叔父上はもういない。()の居なくなった今、急いで時封じの儀をする必要はない……


 ない……?ほんとに……?なんかなかったっけ……??……って!!


「帝国を消すって言ってなかっ、むぐっ!?」


 慌てて飛び上がるとまた座らされて口にどデカい饅頭を押し込まれた。


「いーから食えっての。まだまだ準備がかかんだよ」


 カガリは最後の一口を食べ終わって手を拭った。


「ぷはっ準備ってなんだよ」


「準備は準備」


 これは碌に答える気が無いな。


 仕方なく僕も食べ始める。

 何故か温かいその饅頭の中には肉や、山菜がとろりと煮込まれた餡が入っていて、外側の皮はふわふわもちもちで美味しい。いつの間にか夢中になって齧ってた。


「美味いか?」


 声をかけられてハッとするとカガリが覗き込んできてた。その目があまりにも優しげで、愛しげで……何故だか胸が苦しくなった。

 慌てて視線を戻して饅頭の最後の一欠片を飲み込む。


「うん。美味しかった……ありが、んぐっ!?」


「そうかそうかよかったよかった。もう一個食っとけ?」


 そんなにグイグイ押し付けられてちゃ窒息しそうだ。


 仕方なしに食べ始める。


 強制的すぎるだろ。さっきのあの目つきは何だったんだ。幻か??


 カガリは僕が饅頭を食べ始めると満足したようで僕の三つ編みを解し始めた。


「何してるんだよ」


「ボサボサに絡まった上に寝癖までついてらあ。結び直してやるよ」


 まあ叔父上とのやり取りで随分暴れたから……。


「自分でできるってば……」


 ポツリと溢したけど絶対耳に入ってる筈なのにカガリは髪を優しく梳き始めた。

 しばらく僕が饅頭をもちもち食べる音とカガリが髪を梳く微かな音。僕達二人の息遣いだけが静かな廊下に響いた。


「あのな言っとくが……お前を見てんのはあの阿呆だけじゃねえぞ」


 温かい手で髪を梳かれる心地良さになんとなく身を(ゆだ)ねてると、カガリが口を開いた。


「勘違いしてんだろお前。俺がお前を『アゼルト』と重ねてしか見てねえって。瓜二つなんて訂正してやらあ。泣き虫でヒョロくてチビなお前なんてアイツの何分も一も似てねえや」


「……失礼だな。君が見てるのはいつだって十七代目じゃないか。言動の端々に彼を懐かしむ気持ちが見て取れるよ」


 僕はもそもそと饅頭を食べながら返した。


 そう、カガリの視線はいつだって懐かしむようなものが含まれてて、十七代目へ向けてたであろう愛情に溢れてる。だから……だから、僕は苦しくなるんだ。


「そりゃ顔が似過ぎだからだろ。見る度思い出しもするってもんだ」


 饅頭を食べ終わった僕にカガリが次の饅頭を渡してくる。


 どんだけ食べさせる気だ。もう三つ目だぞ。


 突っぱねようとしたらまた口に押し込まれた。入りきらないから仕方なくまたもちもちした饅頭を齧り始める。


 美味しいからってもう入らないって……。


「お前とアゼルトが別人なこた、俺はちゃんと理解してんだよ、ゼル」


 髪を梳く度、温かく大きな手が頬を、耳を撫でていく。願掛けに伸ばした長い髪を優しく梳かれながら、僕は黙って手元の饅頭を見つめてた。


「性格も、声も、顔も瓜二つだ。お前らは」


「さっき訂正してなかったっけ」


「訂正の訂正だ」


 なんだよそれ。


 そんなことを言ってる間にカガリの手が止まってた。優しく僕の頬に添えられる。


「でも置かれた状況は正反対。アゼルトは明るい未来を守り続けるために。お前は暗い未来を切り開くために。俺と『約束』を交わした」


 僕が少し訝しんで振り返ると、彼の顔が間近にあった。虹を帯びた真紅の瞳が細められる。


「時代が違った。置かれた環境が違った。周囲の見る目が違った」


 そっと頬を撫でられる。


「アイツが生きた時代や、環境は」


 カガリの低く透る声が心地いい。


「恵まれてた。王族も多かった。力量差もそこまで無かった。仁族の数も多かった。畑の作物は実り豊かで、大した危険もなく、国民全員に心のゆとりがあった。アゼルトは皆に支えられてた。心の拠り所もあったし、アルメリアは豊かな王国だった」


「彼の心の拠り所は君かい?カガリ」


「そうだよ。俺はアイツが生まれる前から程よく居心地いいアルメリアに入り浸ってた」


 僕は驚きに目を見開いた。


「十七代目と会った時はすでに相手が居たって……」


「ありゃあん時お前に歯型つけんの納得させる為のウソだ」


 僕が目を吊り上げてると、彼はぽんぽん、と頭を叩いてきた。


「そう怒んなよ。歯型は()()()()()()()()()()、それだけじゃなく俺は既にどうあってもお前が欲しくなってたんだ。ちょっとのウソくらい許せって」


 そう言ってまた髪を梳き出した。


「赤ん坊からクソ生意気なガキになるまで一瞬だった。揶揄ってやりゃ怒るわ泣くわ。お前と同じで負けん気が強くて、頑固で、意地っ張りだった」


 カガリが語る。


「成人までもすぐだった。いつの間にか快活で朗らかに、懐も広く温かく人を包む力を身につけやがった。常に人が寄ってくるアイツのと居るのは確かに楽しかった。ただでさえ恐れられる竜人……それも歴代最強王族相手に恐れもしねえでぽんぽん軽口叩いてくるアイツの側は居心地よかった。だから嫌だった。寿命を削るアルメリアの国王にするのが。そんな理由で誘ったんだ」


 一旦言葉を切って僕の頸……多分歯型を撫でた。


「『番になって国を出ねえか』って」


 なんでか分からないけど、僕は緊張して続きを待った。


「でもアッサリ()()()()よ。恋人がいるからって。この国が好きだからって。国王の使命を果たしたいって……なんか癪に障ったから、アイツが死に際に頼み事してきた時に、『そんなら子孫を一人嫁に寄越せ』って約束したんだ」


『国に危機が迫ったら助けて欲しい』——なんて、真剣で大事な約束の対価に『嫁を寄越せ』なんてどおりでふざけてると思ったよ。

 無自覚みたいだけどやっぱりカガリはプライドが高い。唯我独尊。我が道をゆくわがままな最強王族だ。


「でも元々アルメリアを守るなんて、当然の事だった。前も言ったがアルメリアの危機は世界の危機だ。それに、俺ら他種族は仁族に命運預けてる負い目がある。だから歴代最強の俺が成人過ぎてからは特に。皆で見守って来た。機を伺ってきた。最強だった初代をも上回る()()()()()()()()が現れるその時を待ってた」


「ああ、それで……」


「続きがある。ちゃんと最後まで聞きやがれ」


 僕が納得しかけると、カガリがちょいと髪を引っ張ってきた。


 もうとっくに纏め終わっててもいいはずなのに、まだ僕の髪を梳いてる。なんでだ。


「アルメリアから一旦旅立った後、国王の代が変わる毎に様子を見にきてた。歴代最強を待ってたのは確かだ。アゼルトの面影を追ってたのも確かにある。そしてたまたま両方満たした状態で現れたのがお前だ、ゼル」


 カガリは僕の肩を掴んで振り向かせた。


「俺が噂頼りに次期国王が決まる頃に訪れるように、フラフラしてたばっかりに気づけば今代のアルメリアはめちゃくちゃになってた……悪かった」


 そう言ってカガリは頭を下げた。


「カガリの、せいじゃない……」


 早く、現れて欲しい。そう、思ってはいた。


 ()()()()()()()()()が、時折フラリと現れるのはよく聞く噂だったから。探して、待った。でも()()()だって人だ。歴代最強の肩書を背負わされてるだけで、一人の竜人族だ。闇を払える『炎の王族』にたまたま生まれただけで、ほんとは気ままに、呑気にふらふらと世界を旅する自由な竜人だ。


 歴代最強に生まれたばかりに使()()を背負わされてるカガリが謝る事じゃない。


「そう、俺()()のせいじゃねえ」


 カガリは紅い瞳で僕を見つめた。


「仁族以外の()()()()()がお前らに負わせてた使命を軽く見てたんだ。もっと見ててやるべきだった。常に誰か居座るべきだった。『王族喰らい』なんて禁忌、制約でもなんでも結べばなんとでもならあ。せめて『五種の王族』は一緒にこの山脈の麓に居るべきだった」


 抱き(すく)められる。


「アルメリアが閉鎖された、と霊人族が触れ回ってようやく『俺ら』は焦った。準備した。それに()()掛かった」


 僕は目を見開いた。


「ようやく全ての準備を終えて来てみて、アゼルトと瓜二つのお前を見て思ったよ。また俺らは悠長にし過ぎたって。同じ年頃のアイツと比べて痩せ細って小さい体して、決死の思いで震えながら俺に会いに来たお前を見て、後悔したよ。もっと早く来てやるべきだったって」


 なんでか分からない。分からないけど涙が滲む。

 温かい、温かいな……


「アゼルトと瓜二つな様で、お前は正反対の道を歩んできた。歴代最強。他の奴らとの力量差は圧倒的。その上他の王族は皆死んじまった。唯一の血縁は敵。帝国の脅威に晒され続けて。作物は枯れて。仁族の数も半分に減って。残った国民に他の奴を気にかける余裕なんざねえ。皆がお前を必要としてた。誰もがお前を頼りにした。この国の全て、世界がお前にのし掛かってた。そして、お前が寄りかかる所は何処にも無かった。それでも」


 僕を抱きしめる腕に力がこもった。


「お前は明るく朗らかに笑って、懐も広く、深く、温かく……皆を包み込んできた。国民の希望と、誰かの支えと、なってきた。まだたった十七歳、成人前の子供なのにお前は独りぼっちだった。だが……」


 カガリは抱きしめた僕の頬を撫でた。


「お前は捻くれることも、スレる事もなく、優しく、真っ直ぐな性格を持ったまま成長して。常に誰かを、国を、世界を想い続けてきた。俺の元に現れたお前は、死にに来たんじゃなかった。他の皆を生かす為に命を掛けて会いに来た」


 自然と涙が頬を伝う。それを温かい指が掬い取った。


「アゼルトにもなかった。いままで会ったどんな奴にもなかった。他のために生かすために本気で全てを差し出す覚悟を持ってた。()()()()()()俺は惚れたんだ、『リゼルト』。俺は()()()()()()()()愛してる」


 堰を切ったように涙が溢れ出た。


 悲しかった。辛かった。寂しかった。寒かった。怖かった。不安だった……そんな感情が涙と一緒に溢れ出す。


 ほんとはのんびり人生を謳歌したかった。青い空の下を歩いて、自由に世界を見て回りたかった。強大な力なんて要らなかった。欲しくなかった。


 アジトはいつでも冷たく寒い洞窟だった。稀に摂る食事はいつも冷め切っていた。


 カガリにしがみついて嗚咽を上げる。


 幹部以外に正体がバレない様に、極力人を避けてきた。喋る事も触れ合う事も。

 幹部達の前ではいつでも胸を張って、彼らの背中を叩いてきた。

 いつでも死ねるように、身の回りの物は最小限に。

 みんなの希望であれるように、無茶苦茶に力を鍛えた。


 戦って、鼓舞して、慰めて、癒して、与えて、率いて、みんなが潰れない様に支えてきた。

 誰もが自分のために生きるのに必死だったから。


 でも、僕にそうしてくれる人は居なかった。


 温かい人やもの、場所が大好きだった。


 家族の仲が冷えるのが嫌で、冷えてく家族に何も出来なくて、冷たい仲間の遺体が山となって————


————全て、僕の。せいだと思った。


 物心ついた頃から大きな期待を背負ってることが分かった。

 だから叔父上に唯一甘えた。

 戦場に立ったら士気を上げて先陣切って戦った。

 誰よりも勇ましく。

『歴代最強の竜人』の出現と同時に命を差し出す覚悟をしてた。

 だけど『カガリ』は温かかった。


 鍵を閉めたら子孫を残す事もなく。食われて死ぬと思ってた。


 カガリに会ってからは十七代目の代替品として。側に置かれると思ってた。


 時封じの儀式を無事に終えたら百年にも満たない短い期間しか側に居られないと思ってた。


 ずっと頑なに拒んでた。気づかないつもりでいた。勘違いしたままでいた。

 本当は気づいてた。怒られた時に気づいてしまった。それでも知らない()()をした。

 もう二度と誰かに甘えちゃいけないと思ってたから。わざと分からないつもりでいた。


 でもカガリはちゃんと、()()()()()()見てくれてた。


 ほんとの僕はただのちっぽけな仁族で。甘えたで寂しがりな子供だ。


 それでもいいって、それでいいって、()()()()()()()()()()()()ってカガリはそう、言ってくれてる。


 温かいな、温かい……


 僕も、カガリも歴代最強。同じものを背負ってるって、使命を一緒に持ってくれてるって、その役目から、使命から、解放してくれるって言ってるんだ、彼は。


 僕も、君が好きだよカガリ。

 同性を好きになるってことがどう言うことなのか、これが愛なのかなんなのかはまだ分からないけど、確かに僕はカガリに惹かれてる。側に居たい。そう、思ってる。温かい腕で抱きしめてくれる君の側に。


 いいんだろうか。甘えても。いいんだろうか。支えてもらっても。いいんだろうか。寄り掛かっても。


「泣け、リゼルト。お前は我慢しすぎだ。俺に寄り掛かれ。もっと素直に、子供らしく。甘えろ。俺が支えてやる。俺が()()()見てる。もう独りで立たなくていい」


 涙で視界が揺れてもう何も見えない。僕は物心着いて以来初めて。大声を上げて泣きに泣いた。

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