紫の瞳
――一方サツキは、ガルヴァに詰め寄られていた。
「ねぇ、どうして俺じゃダメだったの〜?」
「ガルヴァさん?」
「同じ屋根の下に暮らしていて、一緒の職場で……しかも部署まで一緒。いくらでも送ってあげたのに!」
「それは」
確かに、つきまとい対策であればガルヴァと一緒に通勤すれば良い。
離れた離宮に住んでいるカイルに送ってもらわなくても良いはずだ。
「ガルヴァ! 誤解を招く言い方は止めなさいっ。同じ宿舎なだけでしょう!」
「だって〜」
シェーンがガルヴァを軽くたしなめる。
「――でも、本当に問題ごとに巻き込まれていたなんて。少し頼ってくれても良いのに、と思わなくはないわ」
「……シェーンさん」
サツキの目が思わず潤んだ。
この世界に来てから、シェーンにはいつも助けられている。
「それにしても……なぜウェルシュター様と?」
「……相談したところ、上司として責任を持つと」
「ふーん。あの、ウェルシュター様がねぇ」
「……?」
シェーンの言葉は、意味深だ。
そういえば、カイルのことだけでなくシェーンがどんな生まれなのかサツキは知らないままだ。
そんなことを考えながら自分の席に着く。
今日も忙しくなりそうだ。
まずサツキは、急ぎでかつ重要な書類が収められているボックスを確認する。
「あ、この書類……副院長のサインが必要だわ」
ほとんどの書類は直属の上司であるカイルのサインで事足りる。
だが、大きな予算の一部はさらに上の管理者のサインが必要となる。
すでにカイルの承認は受けている。
サツキは立ち上がり、副院長室へと向かった。
* * *
王立魔術院には多数の部署がある。
それに伴い建物にはいくつかの棟がある。
サツキが務める部署からは渡り廊下を通って行く。
ふと見れば庭園には今日も美しい薔薇が咲き乱れていた。
夜の庭園は荘厳な印象だが、午前中は爽やかな印象だ。
「――こうして花を見ていると、違う世界にいることを忘れてしまいそう」
サツキはしばらく薔薇を見つめてから、再び歩き始めた。
* * *
王立魔術院の院長は国王陛下だ。つまり副院長は、実質の最高責任者である。
部署の長であるカイルが王弟殿下だとすれば、彼を従える副院長はいったい何者なのだろう。
そんなことを思いながら廊下を歩いていると、誰かに追い越された。
この国でごく一般的な茶色の髪の男性だ。
彼は眼鏡がとてもよく似合うことをサツキは知っている。
「副院長!」
「はぁはぁ……サツキ君か」
「ずいぶん急がれているのですね……サインいただきたい書類があるのですが、出直しましょうか?」
「……いや、特に急ぎの用があるというわけでは」
副院長が大人びた笑みを向けてくる。
彼の瞳が美しい紫色をしていることに気がつきサツキは息を呑む。
特別製の眼鏡で隠されたサツキ瞳は淡い紫色をしているが、彼の瞳は濃い紫だ。
――紫の瞳を持つのは魔女だと言い伝えられている。では、紫色の瞳を持つ男性は?
「おや、見えてしまったのですか」
「副院長……」
副院長が眼鏡を外す。
やはり彼の瞳は、アメジストのような紫色だった。




