青い小鳥
――目を覚ましたサツキは、カイルを見上げていた。
まつげが長いな……と、ぼんやり考える。
次に考えたのは、これはいったいどういう状況なのか……ということだった。
「サツキ、おはよう」
「おはよう……ございます」
サツキが目を覚ましたことに気がついたのだろう。
カイルが目を開けて、微笑んできた。
サツキは起き上がりながら、ようやく現在おかれている状況を把握した。
「あ……あわあわ……」
「……」
「わ、わわわ私っ!」
頬が瞬時に上気した。
きっと今、サツキの顔は真っ赤に違いない。
「おやおや……可愛らしいことだ」
そう言って意地悪げに笑ったカイルは、余裕があるようだ。
――自分ばかり余裕でずるいではないか……サツキはそんなことを思った。
「さて、仕事に行くとしよう……君は恐ろしい思いをしたのだから、今日も休んでも」
「働きます! 働かせてください!」
「そうか……ところで、魔道具は俺が君の部屋に置いてくる」
「え?」
「それから、毎日迎えに行く」
「え?」
二人が夫婦になることを隠すために、移動魔法の魔道具をサツキの部屋に置くはずだ。
それなのに、カイルが毎朝迎えに来たら意味がないのでは……。サツキは訝しんだ。
「君が誰かにつきまとわれているに遭っていることにしよう」
「……嘘ではありませんね」
「相談を受けた俺が送り迎えをする……いかがだろう?」
「それなら――良いのかしら?」
どちらにしても噂は避けられないだろう。だが、攫われかけたのだ。安全を考えれば、しかたがないことなのかもしれない。
「それに――ずっと、君との関係を隠し通そうというわけではないんだ」
「え? でも、シアン殿下の秘密を守るための」
「秘密は一生守る必要がある」
「……」
カイルは立ち上がった。
「あの、すみませんでした」
「――何が?」
「よく眠れなかったでしょう?」
「……いや、こんなによく寝たのは初めてだ」
「どういうことですか」
カイルの笑みがあまりに寂しそうだったため、サツキは息を呑んだ。
同時に胸がズキリと痛む。
「さて、では魔道具の使い方を説明しよう」
――カイルの表情が、鬼上司としてのものになった。
それもそのはず……魔道具の使い方は注意点が多く、とても難しかったのだ。
物覚えの良いサツキであっても、朝の短時間ですべて覚えるのには難儀した。
それでもなんとか覚えられたのは、カイルからの説明がとてもわかりやすかったこと、覚えるまで許さないという鬼上司特有の雰囲気に見張られていたからに相違ない。
* * *
そして、カイルが出掛けて三十分後……窓から青い小鳥が飛び込んできた。
この鳥は、魔術師団が通信で使っているものだ。
百以上の顔や場所を理解することができる鳥で、首に通信魔道具をつけている。
「わああ! 小鳥さん!」
起きてきたシアンが、手を差し出すと小鳥がその手で羽を休めた。
まるで壊れやすい宝物を持つように、シアンが両手に小鳥をのせてサツキに差し出してきた。
「僕知ってる! これは、叔父さまが飼っている小鳥なんだよ!」
「そうなのね」
小鳥はシアンの手のひらの上で羽ばたき、今度はサツキの手のひらにのった。
通信魔道具からは『準備完了だ』というカイルの声が聞こえてくる。
「あ~あ……いっちゃった」
シアンが残念そうに小鳥を見送る。
青い小鳥は、再び窓から外へと飛び立っていった。




